第15話

 距離と砂埃の量から、遠距離狙撃を諦めた黒江はウズメに指示を飛ばす。

「正面は車両を中心に箱の特性を知ってる可能性がある。とりあえず崖上を確認してから照明弾発射だ」

「了解いたしました、崖上サーチしてから照明弾を敵陣に打ち込みそれを同時に合図とします」

 そう言ったウズメは正面と、北側に照明弾を打ち込んだ。

 照らされる地点を急いで確認する。

「正面に車両5、人は30くらいか、崖上は……」

「見えている範囲は20、後方熱源60。本隊は後ろですね」

「まずいか……?」

 箱が光学兵器レーザーである以上、前方に広がる砂埃のカーテンは致命的。

 後ろの騎士団も集団戦闘は訓練しているだろうが4倍の相手で、黒江たちとスイッチしたとしても戦闘車両5と30人の歩兵は難しいだろう。

 ただの野盗ならば個々人の奮戦でなんとかなる可能性は、ある。

 集団戦訓練を普段より行っている騎士団が野盗や害獣相手に強いのはそれに適した訓練を行っているからにほかならない。

 フレイクレスの騎士団は小隊~中隊規模のものが無数にあり、それぞれが得意分野を伸ばす形をとっているが、想定される戦闘に即応できる最低限の戦闘訓練は基礎として一定レベルを維持している。

「問題はクロークの部隊が斥候や伝達部隊だった場合だな、遊撃特化の部隊なら後ろは任せても問題はないはずなんだが」

 クロークの部隊は20人、斥候等なら最大構成か過剰と言えるが遊撃部隊ならば最低構成にあたる。

 遊撃部隊は任務の特性上少数精鋭にくまれることが多いため一人頭5人相手は計算に盛り込める。

 最もこれは相手が普通の野盗や野生生物である前提だが。

「部隊構成は隊長1、副隊長2、ベテラン12の新兵5だったかと」

「昼か?」

「はい、クローリオ様が気持ちよく寝ている間のコミュニケートで得た情報となります。小隊構成と考えれば妥当かと考えちゃいますが」

「新兵が不安だな、15人で70人やれば新兵は一人頭二人……最低でも新兵に15人は相手してくれれば持ちこたえられるかもしれんが」

「それよりも私たちはどう致しましょう」

 ウズメの言うとおり、後ろばかりを気にしてはいられない状況である。

 正面からは戦闘車両5両に歩兵が30人ばかりが向かってきており、それを黒江とウズメの編成で対応しなければならないのだからむしろこちらが問題とも言える。

「ウズメ、戦闘車両の構成はわかるか」

「骨董品に当たるものばかり……ですが好調稼働ですね、車種はWW2独軍パンター3両に湾岸戦争期の装甲車2両」

「よく残ってたなそんなの」

「造ったのではないでしょうか、ウズメちゃんアイでは詳細確認はまだ無理ですが、大きな箇所でもいくつかの差異が見受けられますので」

「遺跡に現物じゃなく、設計図でもあったのか……現状じゃなんとも判断できないな」

 性能がオリジナルと同等ならウズメに丸なげして、黒江が歩兵を相手にする選択ができたのだが、詳細不明という要素が判断を鈍らせる。

 万が一にも人型PDA、それも装甲素材が頑強なボールジョイント型が一時的にも行動不能にさせる威力や連射力があった場合そのまま押し切られることになる。

「ともかく対処は必要でしょう、どういたしますかクローリオ様」

「村内の動きはどうなってる」

「クローク様を中心に騎乗、お昼の間にある程度瓦礫撤去をして整地したため教会防衛に新兵を残し機動力で轢く戦術を取るように見えます」

「対空魔法を持ってる奴がいなかったのか……よし、ここから崖上を狙撃する。簡易接続で後ろ……いや村前方の警戒、変化があれば逐次報告でいく」

「了解いたしました、ウズメ、インサートいたします」

「簡易接続の場合は箱のほうが差し込まれる側だからな?」

「いやだなぁクローリオ様この非常時に何を考えたんです。あ、ナニでしたか」

「今のは俺が迂闊だったから早くしろ」

 ウズメはにやけながら黒江の背負う箱を操作、展開し、人体ならへそにあたる部位からコードを伸ばし接続、背中合わせになるよう振り返り再び敵のいる場所に照明弾を射出した。

「接続……不明でないユニットが接続されました」

「牽制で数人燃やせば帰ってくれねぇかなぁ……」

 ウズメの言い直しをスルーしつつ、崖上に見えている数人に対し出力は高めで限りなく細く絞ったレーザーを照射する。

 引き金を引いたのと同時――厳密には違うが肉眼で確認できる位置に光速なので似たようなものである――に一人、炎上する。

「最初から飛ばしますね、ガラス体が熱変形しちゃいますよ」

「この程度で変形するほどやわに作られてないだろ、今みたいなのを連続使用したらわからんが」

「まぁ1射目で暖機は十分です、ちゃちゃっと着火しちゃいましょう」

 2射目はもっと楽だった。

 暖機が済んでいたため照射が安定したこともあるが、照明弾に照らされている間飛び降りようとしていた人間が突如燃えたことに驚いて動きが止まっていたからだ。

 だが4人目に照射しようとしたところで、崖上の連中が一斉に飛び降り始めた。

「正面、パンターがこちらに進行を開始しました」

「範囲を広げて斉射してからそちらに対応する。数は減らすんだからなんとかしてくれよ、クローク」

 黒江はつぶやき、照射光を太く、広げて薙ぐように斉射を行い追加で落下中の数人を燃やしてから村の正面へと向き直る。

 まだ照明弾は残っているが距離があるためウズメの報告にあったパンター1両しか確認が取れない。

「ウズメ、パンター以外に進行してきているのはいるか?」

「歩兵が数名確認できますが、いささか数が少ない気がします。というか並んでいた装甲車が見えなくなっています」

「索敵範囲を広げて確認、パンターが有効射程に入り次第主砲口を狙撃する」

「ドライバーではないのですか」

「それでもいいが、砂埃の密度的にこっちのほうが楽だからな」

 ウズメに索敵指示を出しつつ、箱付属の多目的ゴーグルを装着する。

 暗視、サーマルと合わせて箱の照射補助機能を起動するとウズメの報告通りパンターの周辺に3名程度の歩兵が確認できた。

 しかしゴーグルを用いてもこちらに進行している連中が、光学処理をされた映像で表示されるだけでウズメの報告にあった後方の連中は見えない。

 ウズメを含める人型PDAのカメラと照準補助が主目的の多目的ゴーグルでは性能が根本から違うため致し方ないのだが黒江は舌打ちをする。

「スポット致しましょうか」

「クロークたちはどうなってる」

「最後の斉射によって完全な戦闘不能は8人くらいでしょうか、距離が一番遠かった地点では燃焼不足で装備の一部を燃やした程度のようです。しかしそれを篝火とし騎士団が対空射撃をして崖上にいた敵性勢力は降下中に3分の1の戦力低下を認められます」

「ならスポットを頼む」

 クロークたちの実力は未確認ではあるが、黒江が降下前に減らした人数を考えれば対応能力は高いと判断できる。ならば後ろを完全に任せ、正面に集中することとしてウズメも最大限手伝わせる。

「進行部隊は粉塵軽減を考慮に入れればまだ射程外、後方は消えた車両とそれに追随していた歩兵数名はやはりウズメちゃんの視界内からも未だ発見できません。最大望遠10kmなのにいやん」

「なら単純に稜線に隠れてるか、障害物を想定だろう」

「細かい地形図がデータにありませんのでそこまでは」

「辺境地で未だ開拓中か……」

「ユベルニクスランド自体が一部地域を除き開拓中につき常に野山が切り拓かれておりますので、やはり軌道エレベーター上からの空撮データの転送システムが急がれます」

「無いものねだりは今必要ない、感知範囲警戒しつつ射撃補助スポットを頼む」

 ウズメに指示を出し、座った状態での射撃姿勢を取って黒江は呼吸を整えた。

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