第13話
イーストエンドの派遣隊が到着するまで村人が薬草を増産することで医薬品の問題は解決した。
アーカムをはじめとした村人の多くが畑に種を植え魔法を使うと急激……とするのも遅く感じる速度で成長し、収穫可能なほどまで育ったのだ。
最も、魔法を使った村人は全員疲労で小一時間動けなくなったことから消耗が激しく普段は使わないものなのも納得である。
「しかしこれで俺と騎士団は防衛に注力できるわけだ」
黒江が現時点の村をマッピングした地図を広げ、クロークと共に陣地形成を詰めている。
「とは言え付け焼刃なのは確かです。元々不作時の緊急処置用の魔法だったみたいですからね」
「今はその付け焼刃が必要だったからな、解決したことを話すよりは先のことを話そう」
太陽の位置から方角を割り出した地図は教会を最北とし、そこから大破壊前から続く関東地方の銘菓のような形……ひよこ状になっている。
森が広がる東側を腹として南に楕円の形に村が広がっていた。
森の先は大破壊による汚染された砂漠が広がっていて、北と南は山……というより崖であり本来ならば防衛を考える必要な無いと言える。
「相手がこの地域の地形を熟知した連中でなければ、守るのが楽なんだけどなぁ」
「森はリスクの上で選択しないでしょうが、崖は考えなければいけませんね」
「魔法に落下速度軽減とかもあったんだっけか」
「はい、大破壊以前の遺跡探索等で傭兵に人気の基礎魔法の一つですね」
人気の基礎魔法という文言に黒江は少し動きを止めたが、続ける。
「大破壊以前の兵器は平地からでしょうが、崖からの奇襲に備えないといけない以上戦力の分散は致し方ないものとなりますね」
「あちらさんのほうが大人数で、手段と方法があるならやらない理由がほぼ無いな」
「そのほぼの部分は?」
「しごく単純、あちらさんはこちらの戦力の最低でも5倍なんだ。正面から全戦力ですり潰す作戦もあるってことだよ」
「しかしその確率は低いと予測できます」
黒江が村に到着した際に撃退した野盗の中に逃げ切った者がいれば正面から全戦力を傾けるのは愚策だと判断するには十二分、一撃で全戦力を消し飛ばされるのがわかっていてそれでもやるのはただの無能か馬鹿だ。
「低いだけでゼロではないのが辛いところだな、まぁどのみち俺とウズメが正面にいれば対応可能か」
「大きな負担をお任せすることは申し訳なく思っています」
「いや、最初からわかっていた負担に関しては頭を下げる必要はないって」
「そうですね、クローリオ様は接近戦が苦手であられますしこのポジションにしか収まれませんからね」
システムチェックと簡易充電が終わったのかウズメが箱から頭だけだして会話に混ざってきた。
「確かに苦手だが、これでも軍学校で仕込まれた程度のことはこなせるんだがな……」
「治安監視委員の必要最低限のスキルですので当然ですね。私やクローク様と比べたら全然ダメでしょう」
「比べる相手がおかしいだろうが……」
射撃武器の運用を中心に訓練している黒江のような一兵卒と、近接武装を中心とした個人戦闘を主とするクロークのような騎士、役割が根底から違っているため接近戦――つまるところ格闘技能――の練度は違って当然。人型PDAであるウズメはCPUとプログラムによって達人の技能を再現できるので比べることが間違いである。
「それで村内で待機する騎士団の構成ですが、5人づつ北と南に配置し、前面後方に詰所の形にする予定です」
「妥当だな、どの位置にも即応出来る場所に詰所で待機人数は交代を考えた半数。現時点で出来る最大限だ」
「完全休憩のサイクルが取り入れられないのが欠点でしょうか」
クロークと黒江もそれは承知している。
承知しているが現時点では人数が限られているし、村の復興も少しづつだが進めないといけない。
「とは言え復興具合は芳しくありませんね、昨日の今日ですが」
「俺たちは初動の応急手当程度だ、本腰入れるのは援軍到着後だから今は籠城のことを優先してくれ頼むから」
「ウズメちゃんの踊りで気力アップと洒落込みたかったのですが残念です」
「では今夜の防衛はこの通りでよろしいでしょうか」
「あぁ、横を突かれたらそっちの負荷がでかいがお互い頑張るってことだな。最短で明日、最悪後2・3日見ないといけないから疲労が溜っている連中は休ませておいたほうがいい」
「溜っているって……」
「ウズメ、今はその流れではない」
実際のところは筋肉をほぐすマッサージとかだろうが、ウズメが単独で行うそれは時間的に難しいため制止する。
残念そうな顔をするウズメを横目に黒江は村の入口を見て悪い予感を感じていた。
来るのなら、今夜辺りか。
予感が予感で終わることを期待しつつ、襲撃に対する準備のため手を動かし始めた。
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