第11話
騎士団が設営のために持ってきていた道具と、教会にあったスコップや工具で黒江が想定していたよりも早く土台となる部分の整地が完了した。
これは騎士団からの人員が基本的なことはもちろん、多少の道具の応用や力学的設計を感覚的に理解していたのもあるが、全体的に士気が高く軽口程度の愚痴はあったものの心底からの不平不満が出なかったのが大きい。
「クローリオ様、地味にほぞなどの加工に時間がかかってしまい申し訳ありませんでした」
道具などの整理を始めたところにウズメが建材となる木材――資材が少ないことを考慮して釘などを使わない加工までした木材――を持ってきて、重量が重い柱を出来上がっている基礎部分に建てながら報告している。
「まぁ日が傾いてきているから報告は別にいいが、ウズメ型は本当フリーダムだな」
「お褒め下さり光栄です。ウズメそそくさと柱の組立行っちゃういますよーバリバリ」
最後謎の擬音を残してやはり重量がある柱を中心にかなり早い速度で組立を行っていく。
「俺たちは壁と内装を中心に仕上げる。柱や屋根はあいつに任せれば大丈夫だ」
黒江が設営をしている騎士団に向かい少し大きめの声で、言う。
ウズメはバッテリー用途の観点からその体躯はかなり小さめにされており、その点で騎士団の数名がウズメを手伝おうかと動いていたためである。
「でもあんな小さい子にだけ重労働なんて……」
一人の騎士が予想通りの返事を黒江に向ける。
「お前の知る小さい子ってのは柱を4つ以上担ぎながら数メートルジャンプできるのか」
集音マイクの能力を考えると確実に聞いているだろうウズメが腰をひねらせて反応する。
「ウズメか弱いのでこの程度がせいぜいなのですから騎士の皆様の気遣いを止めるのはいかがなものかと思います」
そう言いながらもタップダンスを踊りだす辺り人が行うのは難しい作業を行う労働力を目的とされた人型機械のAI基礎による
手伝おうとしていた騎士が建材を担ぎながらタップダンスを踊るウズメを見て固まっている。
「ウズメうっかり、これでは誰も手伝っていただけません。どうしましょうクローリオ様、チラッチラッ」
「なんで最後に擬音を入れたがるのか分からないが、柱と屋根以外は基本俺と騎士団の仕事だから安心しろ」
「ならばちゃっちゃかノルマ達成して広場でレッツダンシングとしけこんじゃいましょうか」
「しけこむな、お前の場合冗談で済まない可能性が否定しきれないから絶対しけこむなよ」
えー、と不平を漏らしたがウズメはそのまま作業に戻った。
ただのダンスなら黒江も文句はないがウズメという名前を付けられた人型PDAはとある動作をしたがるという事前知識があったため命令として却下しておいた。
「別に踊るくらいいいんじゃないですかね、気分転換にもなりますし」
案の定知識のない騎士が笑いながら黒江に言ってくる。
「あいつ……というかウズメ名義の人型PDAはな、脱ぐんだ」
「は?」
「開発部がどうしようもない連中ばかりでな、ウズメという名前ならするべきだってストリップダンサー機能をつけてるんだよ。流石に子供もいる状態でそんなの見せられん」
「スト……えぇ!?」
最も、ボールジョイントボディの場合実にメカメカしい肢体であるためこれっぽっちも扇情的ではないのだが、ウズメの場合は前任者の学習分で下ネタもたっぷりの言動を行うために大惨事が予想できる。
それに襲撃当日とは言え街道を封鎖する形で集合している野盗残党が再び襲撃してくる可能性はゼロでない以上娯楽は後回しにするべきと黒江は考えたのである。
「まぁ流石にこのまま常に緊張なんてのは色々摩耗するだけだし、俺が睡眠を取った後見張りをやる際にクロークが認める範囲でならいいかもしれないがな」
後でクロークに注意点を教えておこうと思いつつ黒江は壁となる部分の基礎組みの作業を進めるのであった。
「すごく簡易すぎる気もするが、横になれることを優先した結果だから勘弁してくれよ」
思いのほか早く立て終わった小屋の前でアーカムに謝罪をしていた。
柱と屋根に関しては比較的頑丈に組む設計であったが、何しろ壁と床部分は人海戦術の突貫工事もいいところで雨ざらしや野宿よりマシ程度のできなのである。
寸法をしっかりと合わせる時間がなかったため壁のところどころに隙間があり、扉も少し立て付けが悪い。
三日持てばいいという形で建てたためにそれ以降の再利用を考えていないようなできなために黒江自身が納得できておらず申し訳ないという心境なのである。
「いや、教会で収穫直後の芋みたいな思いするよりはマシだよ」
何か嫌なことを思い出したような表情をしつつアーカムが言う。
建築中の数時間は教会で怪我人等の対応をしていたはずなので、その短期間の間にそんな表情が出るほどの圧迫感だということなのだろうと勝手に思うことにする。
「それほどだと衛生面でも不安だな、できれば負傷者は衛生が確保された場所で休ませたいが……」
教会以外が瓦礫となった村でそれを望むのは贅沢ではある。
だがそれを実現しなければ感染症や食糧が汚染されかねないためやらざるを得ないのも事実である。
「一晩程度なら大丈夫でしょうが、流石に明日の日中を目処に対処しなければならないでしょうね」
クロークが見解を述べた。
騎士団には治癒魔法を使えるものもいるが、感染症までは治せないらしい上に応急手当程度の効果しかないため根本的な解決にはならず……。
「教会を……いえ、それでなくても治療専門の場所を確保するべきでしょうね。村人には重傷者も少なくないですから」
「ウズメちゃんは簡易的な医療技術は保有しておりますが、やはり初期治療の範疇を抜け出せません。知識自体はデータベースアクセスにより増やせますので場所と道具を用意していただければ医者の真似事程度なら可能ですが」
「……どちらにしろ医務室的な場所が必要ってことだな、今からだと徹夜作業になりそうだが」
黒江がそう言いながら空を見上げるとだいぶ日が落ちている。
まだ太陽は見えているものの、空は夕焼けが広がり東側には既に星が見え始めており今から作業をすると灯りの無い中での作業となり人間にとってはよろしくない。
黒江の国であるのなら電気インフラが――全体で見れば大破壊前よりも――充足しており夜間作業自体はそれほど珍しくもない。
しかしこのユベルニクスランド全域は電気インフラ自体が大破壊の影響であまり設置できず、電気インフラが使用できる場所が基本的に現地で興った国の首都や物流の拠点となっていて、それ以外の場所では火を用いた灯り等が中心である。
「初動時に教会内の負傷者、重症者の確認を行いましたが時間をかけるのは得策ではないとウズメちゃんは報告しちゃったりします。正直このあとの命令が想定できますが」
「その通りだな、じゃあウズメは衛生面で優れた建築を今晩中にやってくれ」
「想定通りです、了解いたしましたがやはり過重労働ですね」
「人間が過重労働にならずに済むよう作られたお前らがそれをいうか……」
「それもその通り、この世界に生み出された使命をウズメちゃん全力でこなしちゃいますよ」
クロークとアーカムがウズメに対して何か言おうとしていたが、言葉を出す前にウズメは森へと姿を消した。
「大丈夫……ですかね」
「心配はむしろこっちだな、ウズメ無しで全部こなさないといけない」
それを聞くと二人は今気づいたというような声を出して、数秒止まっていた。
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