第7話
「なんだ、私からクローリオに伝えてくれってことだったのね」
説明を受けたアーカムは再び顔を赤くしたが、どこか安堵した表情で確認していた。
「民間人からの情報提供ならこの国の国庫からの庇護を受けずに済むからな」
「でもそれでクローリオになんの得があるのよ」
「政治的な理由があったりするが、何より俺がそれを受けるのははばかられるんだよ……ぺーぺーの新米が援助受けるほどの大役は荷が勝ちすぎる」
「つまりひよったってことですよね、チキン様」
黒江が怖気づいたのは確かだが、実際に政治的理由が強い。
相手国の財源で活動するということは途中で離脱することができない、つまりは解決する義務を負うことになる。
「事態の規模が掴めない段階でおいそれと適応されちゃいけないものなんだよ、本来なら」
「まぁ実際大破壊以後、こちらの土地で国が生まれ国交が結ばれて以降変更されていない条約ではありますから時代にそぐわないのは当然の理かと」
まだユベルニクスランド全体が不安定で、野獣被害が中心であった時代ならば一宿一飯の価値観で済んでいたが、それぞれの地域が国としての形がはっきりとして来てからは領土紛争等の人と人の争いが加わり紛争、下手をすれば戦争となる事案が増え始めたところから治安維持委員上層部でこの条約内容を見直すべきとなった。
「つまるところ、私たちと一緒にこちらに来た大使はその辺の条約周りの話し合いもしに来たということですね」
「条約は片方の国が一方的にってわけには行かないからな、だからこそ今俺が迂闊にその辺安請け合いするわけには行かないわけだ。今回みたいな突発的、偶発的に遭遇した場合はその限りではないが」
「えっとなんだ……つまり、どういうことだ?」
アーカムが混乱しているとクロークが補足する。
「騎士等の身分の者が情報を渡す場合は正式な依頼と捉えられ、クローリオ殿が自由に身動き出来なくなる。民間人であるアーカムさんからの情報の場合はその限りではない、ここまではよろしいでしょうか」
アーカムは無言で頷く。
「クローリオ殿もイーストエンドの要人ですが、立場としては傭兵に近いものです。ただし騎士相当の行動制限は付きますが」
「つまり、どういうこと?」
「俺は軍人扱いってことだ、こっちで言うなら近衛騎士相当かな」
「すごく偉い人……でいいの?」
ユベルニクスランドに置いて近衛騎士とは武芸に秀でた武門貴族のことを指す。
「それがそうでもないのです、職業軍人相当ですがクローリオ様は外務省所属でありますが治安監視委員の役割を鑑みた場合自衛隊所属であり防衛省管轄ともなります」
「こっちの人間に伝わらない文章で説明するのはやめとけ。まぁなんだ、近衛騎士相当の責任を負わされてはいるが、立場的には一般騎士と同じようなもんだ」
「なんだか、すっごく面倒そう……」
「実際面倒だからな、手続きとか」
簡易内容外務官であり戦闘行為を認められた自衛隊員である。というとても面倒で複雑な存在になってしまっている治安監視委員はある意味では大破壊後の世界情勢を端的に示している存在である。
イーストエンドと呼ばれる黒江の母国以外の国が大破壊で滅亡したということは単純に世界人口が9割超減少したということになる。
真っ先に問題となったのは生産人口減少による食糧問題、次にエネルギー……そして労働力である。
資源に関しても問題に取り上げられたが、生きる上で必須の食糧を最優先とし現湯ベルニクスランドをはじめとする様々な要因で汚染され荒廃してしまった土地の開拓に人員を割いた結果、様々な部分で労働力不足が発生した。
「純粋に人手不足なのでこき使える人材、職業への負荷が多大になっているだけですね」
「公務員はその辺顕著だな、まぁ大破壊直後は過労で倒れる人が多すぎてそれが原因で滅亡するんじゃないかとも言われるほどだったらしいが」
「その時の経験から私、ウズメのような汎用人型PDAが生み出されたわけです。既存のロボットと残った人工衛星を活用したものは本当に補助程度だったんですがね」
つまりウズメは凄いのです。と続けて胸を張った。
実際凄いのは確かなのだが黒江的にはどこか腑に落ちない。これもウズメ標準AIが頻繁に一言余計な発言をするからではあるが、ウズメを受領登録する際に前任者との蓄積学習リセットをしなかった黒江自身の自業自得なのでその思いは飲み込んでおく。
「で、私は結局どうすればいいのよ」
「とりあえずクロークから現時点での村周辺情報を聞いてくれ、その後俺に話してくれればいい。二度手間だが全体からすればむしろ手間が省けるんだ」
この手間は実質黒江のものは増えるのだが、アーカムは当然のことクロークの事務
的な手間が大幅に省くことが出来る。
それを聞いたアーカムは首をかしげながらクロークと一緒に広場の反対側へと歩いていく。
「クローリオ様は自分に厳しくあられます、流石の前任者もそこまでではありませんでした」
「今前任者『も』って言ったよな」
「肯定します、そしてクローリオ様はそれを上回っておられます凄い」
どうやら前任者はかなりユニークな人間だったようだ、書類で確認した上では40後半だったようだが直接面識がないのでウズメからの情報でしか判断ができない。
前任者がどのような人間であったかはそのうち判るだろうと頭の中で保留したところでアーカムとクロークが戻ってくる。
「えっと、クローリオに今の内容を話せばいいんだよね」
クロークが頷くのを確認すると黒江のほうへと向きなおし、顔をまっすぐ見つめながら話し始めた。
「現時点で村近辺に潜伏している可能性は低いが、街道の一つが再び閉鎖されてる。その中には前文明の武器や戦闘車両も確認されており騎士団の本体が来なければ鎮圧は難しいと思われます……であってたっけ」
かなり棒読みであったが、クロークが首を縦に振る様子を見る限り聞かされたそのままを喋ったことが判る。
「治安監視委員の業務内容でも、かなり重いものと判断いたします」
ウズメの言葉に同意しつつも黒江はどうしてものか思考を巡らし始めた。
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