第5話

 溶けるように破壊された戦車が冷えるのを待ちつつ、村を襲った野盗を捉えて尋問する。本来なら治安監視委員の役割ではないが騎士団が到着していない現状村人に任せるわけにも行かないため黒江は仕方なく荒縄で動けなくした――持ち物検査をして、靴も脱がせた状態――野盗を眺めていた。

 捕縛できたのは黒江が薙ぎ払った時点で戦意を喪失していた連中で、知っていることは話した。

 内容としては単純でおいしい話があるからと集められただけのことで、中心になってた連中は全員戦車MBTに乗っていたらしいとのこと。そもそもアレの存在は集められた連中には聞かされていなかったようで、具体的な内容は訓練ですらやっていない付け焼刃的なものでは要領を得ない情報しか引き出せなかった。

「何の情報も得られませんでしたとか役立たずでしょうか。最も私の汎用にも尋問・拷問の類はインストールされておりませんので人のことは言えませんが」

 生存者の捜索・救助に瓦礫の撤去を任せていたウズメがいつの間にか隣にいる。

「お前のその手の会話は慣れた……それよりも生存者はどうだった」

「教会に30、民家に合計で15、アーカムさんのようにたまたま村を離れていた者が5で計50名です。元々が80人ほどだったようで被害者は……」

「建造物の被害規模にしては、か……当人たちにとっては数字じゃないけどな」

「建造物に関しては無事なものを探すほうが大変ですね、まぁ完全に無事なものが目の前にありますが」

 教会と畑に関しては、即日常に戻れる程度の損害しかないのに対し、民家はそのほとんどが程度の差はあれど少しの補修ではすまないほど破壊されていた。

「考えられるのは教会を拠点とし、畑にて食いつなぎつつ野盗活動を広げるつもりだったという推測ができます」

「そんな場当たりの計画に戦車MBTを持ち出すなんて考えられないな、あれ自体が骨董品で動かすにはそれ相応の知識が必要なんだ、一人だけじゃなく数人が知識を持たなきゃまともに動かせないし、主砲の発射も難しい」

「クローリオ様の推測をウズメは大変聞きたいかな?などと思って見ちゃったりしてます」

「話し方とかについては今後落ち着いたら話し合うとして、あまりこの手の推測は本職がいない状態で、しかも状況証拠しかないタイミングでしたくはないんだが……」

 黒江はそこでひと呼吸間を置いて、続ける。

「少なくとも戦車MBTに乗ってたやつは野盗というには賢すぎるってことだな、既に消し飛んで確認ができない以上本職でも憶測の域はでないだろうが」

「つまりクローリオ様が原因で色々わからなくなったと」

「原因ではないなぁ……まぁ消し飛ばした当人ではあるがあの状況なら仕方ない、真実より人命優先だ」

「人命最優先のお仕事なので流石の私もぐぅの根もでません、ぐぅ」

 野盗の命は換算されないのか、などと本国の一部市民団体あたりが攻撃してきそうだが、凶器を向けてきている連続殺人犯を前に危害を加えないから話し合おうと言って通用するパターンがいかほど存在するのだろうか、一度真正面から聞いてみたい気もするが無理というものだろう。

「やとーの生命は消えていいのかー」

「素晴らしい棒読みだと関心はするがな……というか頭の中まで推測しないでくれないか」

「まぁ実際のところ野獣に喉元を噛み砕かれそうになっている人に多少言葉は変わりますがその質問をした方が歴史上いらっしゃったみたいです。目の前で人命を見殺しにしたおまけにたまたま通りかかった治安監視委員に助けられ、人命より野獣の命を優先したと世間から叩かれ、法的には殺人と同列と判断された事例が……」

「それ、今長々と喋る必要があったか……?」

「ありません」

 個人的にはそんな平和ボケの象徴のような団体はいても良いとは思っている。最も大破壊直後に棄民政策をしてまで既存文明を保護する判断をした国がそれらを認めているのも既に世界で一国だけとなった民主主義を守るためという矛盾しているような理論で許されている。

 無論現時点では民主主義国家が増える傾向――旧北米大陸では既に制度以降した国もあるらしい――にある以上いずれは矛盾でもなくなるだろうが、それと同時に過去の棄民政策に対して訴えが起こるという危惧が根強く残っている。

「大破壊前の娯楽にあったように超技術で戦争仕掛けられても困るといったことでしょうか」

「大昔のアニメの話はおいておこうか。実際は主権を認めてるどころかインフラ技術や治安維持に関して力を貸すどころか自力開発等は後押しまでしてるし、国民はこっちに対して同情的だったりでまるで環境が違うしな」

 政府お役人や経済トップの連中がどう考えているかは知らないが、少なくとも多くの人間は協力的であるのは事実である。ウズメの言ったアニメは搾取構造が強く、現地の不満が溜まりきったところに様々な要因が重なった結果なため現在の国際情勢には当てはまらない。

 黒江たちの国にほとんどの国が頼りきっている点は確かであるが食糧生産の面ではユベルニクスランド側に依存しているのが実情である。一応軌道エレベーター上部にて無水栽培等で自給率は100%を超えられるらしいが、まだ実働一年の沖縄エレベーターで一次産業を安定事業として運用するにはリスクが大きいという理由で見送られている。

「まぁ政治的なお話は別として、人命救助及び瓦礫の撤去に集積を済ませました。あぁそれと全身鎧を着込んだ騎兵の小隊があと30秒ほどでこの広場に到着すると思われます」

「概ね想定通りと言えば想定通りのご到着か、とりあえず村長は……生きていたか?」

「いいえ、女子供を教会に避難させる際に。私が最初に降りた井戸近辺広場にて殺されたと思われます」

「仕方ない、とりあえず教会のほうに村の代表代理になれる人員を選出のお願いでもしてきてくれ。村の人間が来るまでに俺が騎士団に知っている範囲で事の顛末を説明しておく」

「了解致しましたが、会話の間に到着しておりますね」

 ウズメの言うとおり、20人からなる重装騎士が馬で現着するところだった。村人は肉体的、精神的共にダメージを受けているだろうという観点からアーカムに頼んで教会で落ち着くまで居てもらっている。見方によっては黒江が村を襲撃して教会に押し込んだように見えなくはないため、村長……は襲撃で亡くなっているため代理を務められる人を呼んでくるようにウズメに指示したのだが遅かったようだ。

「貴公らは村の人間ではないな、この状況……説明してくれるものと期待しているぞ」

 典型的な尊大な言葉遣いで鎧の調度が少し豪華な先頭の騎士が口を開いた。

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