第4話
「なんだてめぇら!」
野盗が黒江たちを見つけて叫ぶ。
服装が奇抜――人型PDAとペアで行動する治安監視委員の服装はすぐに判るようトリコロールカラーで青いズボンに白いシャツ、赤いマントとすごく目立つ――な男と一枚布だけのような女が現れたら叫びたくなる気持ちも判る。黒江はそんなことを考えつつアーカムを捕まえていた男に照準を合わせ、出力を抑えて引き金を引く。
同時に肉の焦げる臭いが発生し、アーカムの拘束が緩み……彼女は自力で脱出して黒江のそばまで一息で走ってきた。
「私に当たったら…っていうか燃えたらどうするの!?」
そんな抗議を聞き流しつつ、状況を作り出すために引き続き引き金を引き、アーカムを捕まえていた連中の数名を無力化したところで口を開く。
「で、あんたらは何を目的にこの村を焼き討ちしたんだ?」
「無言でこっちを焼いたと思ったらなんだテメェ……」
「まぁ怒りは最もですよね、彼らが村を焼き討ちし命を含んだ略奪をしていなければですが」
治安監視委員という存在自体は、比較的認知されている。ただし国同士のいざこざや害獣駆除をする集団程度の認知度で細かい業務は知られていない。これは兵士が農墾をしたり、警官が何でも屋のような細事にも駆り出されたりするようなものと同じことで、それほど珍しいことでもない。
ただ治安監視委員は存在自体が抑止力としての側面が強く、あまり野盗などの行動にでしゃばらないし、でしゃばったとしても今黒江が行ったような実力行使自体は無いように思われているのである。
「まぁなんだ、騎士団は気をつけていたんだろうが運が悪かったな。ここまでやっちまったんだ、俺が手を出しても外交問題どころか勲章ものになる。そんなものいらんが」
黒江はそれだけ言い、後ろの建物に当てないよう薙ぎ払うように出力を上げた
黒江の使う
しかし事はそうそう思うように進まない。
「残存、2・30人と言ったところでしょうか。戦闘の意思を失った軽傷のものも含めれば70人に増えますが」
光学兵器ということは影に隠れてしまえばそこまでは影響を及ぼせない。単独運用時の欠点が顕著に現れてしまう形で野盗が残ってしまった。
「クソが!お前ら、あれ使うぞ!」
野盗の一人がそう言うと動けない仲間を置いて村の外へと走っていった。本来なら追撃して捕縛か殲滅を行うべきではあるが、村の状況や黒江単独しか戦力が無い以上諦めるしかない。
「……追撃できる状況でもないか、ウズメ充電頼む」
「了解致しました、うっかりやられちゃわないでくださいませ」
一度腰までのお辞儀をしたウズメは、黒江の背負う箱に細かく折りたたまり収納される。知らない人が見ればホラーであるが、アーカムは少し引いただけで口を開いた。
「でも大丈夫かな……あいつら何かあるような感じだったけど」
「格闘戦能力なら確かにウズメがいないと不安が残るが、こういうタイミングで充電しないと俺が戦力にならなくなるからな、レーザー無しでやらざるを得なくなるのは避けたい」
黒江自身も戦闘訓練は受けているが、単独戦闘というものではなく定義するのなら特殊部隊用のそれに近いもので、飛び抜けた技能があるわけではない。
実際にこの国の騎士と真正面から格闘戦を行えば黒江は負けるだろう。そしてその騎士ですら単独で逃げていった野盗の残党をまとめて戦うのは難しい。そのためバッテリー用途型汎用人型PDAの汎用には戦闘が含まれているのである。ウズメは完全スイッチ型だが、中にはケーブル接続で人を護衛しつつ箱に充電を行えるタイプも存在するらしい。
「まぁあの様子なら切り札ってのはゼロ距離の格闘戦ってよりは何かしらの強力な兵器とかだろ、それならむしろウズメは収納状態のほうがいい」
「それってどういうこと……」
アーカムが更に質問をしようとした時、爆音が空気を振動させた。
爆音の正体はすぐに判明した、黒江たちのすぐ後ろの建物が崩落したのだ。ただ支柱となる柱や壁に破損がなかったことから、爆音で発生したもので崩落するだけの破壊を受けたことになる。そして崩落とほぼ同時に地面が微動、特徴的な駆動音が聞こえる。
「成程、連中の切り札は
「クローリオ様、建造物破壊による土煙に乗じて行動を起こすことを提案いたします」
「排熱展開、一撃で決める。流石にあれが蒸発すれば逃げてくれるだろうからな」
「承知致しました、外装放熱システム展開、エネルギーバイパスを私と直結、同時にジェルによる冷却から空冷システムへ移行し起動します、しました」
黒江が背負っている、ウズメの入った箱の外装が展開して大きく広がる。光学兵器を使用する際のエネルギーでの加熱で、黒江は今までこの機構を展開することはなかった。
バッテリー用途型汎用人型PDAの戦闘能力とアシストシステムが優秀なため本来の用途である『バッテリー』が使われることはそうそう存在しない。単純にPDA自身の戦闘能力や
しかし相手が生身で対処するのは難しく、高い戦闘能力を保有する汎用人型PDAですら対処が難しい場合、個人の判断で使用することもある。例えば今野盗が持ち出した
「あつっ!」
近くにいたアーカムが展開された放熱板から排出された熱で叫ぶ。
「とりあえず離れてろ、今からもっと熱くなるから」
黒江のその言葉に無言で頷くと路地のほうへ走っていった。
「ジェネレーター熱量臨界、放熱による推力にてリフター移動可能」
リフター、というには多少語弊がある。原理的には確かにリフターなのだろうが発生する推力が大きいため黒江たち治安監視委員は違う使い方をすることのほうが多い。
「推力方向を指定、アレの上を取るぞ」
「方向指定とは別の指示が来ましたが了解致しました」
展開した放熱板のいくつかが向きを変え、黒江を上空へと浮かせる。その際、地面に触れそうだった放熱板が足よりもしたの方向にも伸びて冷却効率を上げる。今第三者が黒江のことを見ればまるで真紅の翼を持って空を飛ぶために羽ばたいているようにも見えるだろう。
『飛翔』と定義したほうがいい黒江を上空へと浮かせるそれは
「出力は十二分、いつでもどうぞ黒江様」
「まぁ、恨むなら自分たちのしでかした虐殺を恨め」
相手に聞こえるはずもない言葉を口にすると同時、黒江は引き金を引く。
銃口が光ると同時に戦車の砲塔部が溶解を始め、内部から爆発を始める。砲弾の炸薬が炎上爆破したのだろうが、それに伴う乗員の悲鳴があげる前に燃料に引火したのか、
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます