第7夜 かささぎの贈り物

 おかしい。最近の琴音ことねは明らかにおかしい。

 あれから1週間が経った。あの日、デートに行ってからというもの、琴音はふいにぼーっとすることが多くなった。デートのことを聞くと「えっ!」と言って慌てるくせに、結局無理やり話題を変える。いつもなら照れながらも嬉しそうに話すのに…。一体あの日、琴音と鷲塚わしづかに何があったんだろう。もやもやと気になりながらも、なんとなくに関しては触れられずにいた。

 そうして数日後、いつまでもぼーっとしている琴音が心配で思わず聞いた。

「…ねえ、明後日あさっての準備、ちゃんとしてんの?」

「んー」話しかけても、上の空の琴音。

「…琴音!」

「え!何?どしたの。」本当に人の話聞いてない。

「…はぁ。明後日、準備したの?」

「明後日?」

 …え。なんか嫌な予感がする。

「……」

 数秒の沈黙の後、サァっと音が聞こえたかのごとく琴音の顔色が変わった。

「え、明後日!?花火大会?嘘、どーしよ。」

 状況が飲み込めたらしい琴音は、今度はパニクっているのか物凄く饒舌になった。

「ゆ、浴衣は…あ、真美まみにしてもらうんだっけ。髪…も真美か。下駄は押し入れからだして、えーとそれからー…あ!時間!まだ決めてない。帰ったらてるに連絡して…。あとは…」

「わかった!わかったから、落ちついて。」

 聞いてるこっちが酸欠になりそうだ。

「毎年行ってるんだからなにもそんなに変わらないでしょ?着付けとかやるから4時にうちに来て、6時半には会場に着くように動けばいいだけ。花火は7時からなんだから席もとらなきゃでしょ?」

 うちは代々、呉服屋で毎年この季節には着付けをやってもらったり、習ったりしに来る人が多い。琴音もそのうちの1人だ。

「そう…だね。ごめん、ありがと。頭冷えた。」どうやら淡々としたわたしの言葉に自然と冷静になったらしい。

「扇子とかは?持ってるの?」

「ううん。去年、花火大会でどっかの会社が配ってたうちわくらいしか…。」

「そ、じゃあ良かった。」

「え?」

「…はい。」私はリュックの中に入れていた小さな長方形の袋を取り出して琴音に手渡した。

「何?これ。」

 不思議そうに聞く琴音。

「開けてみれば?」

 促すと琴音は素直にその袋を開けた。

「わぁ!綺麗~!」

 中に入っていたを持って琴音は嬉しそうに笑った。

 頑張れ、琴音。

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