第6夜 橋駆ける織姫

「うま!」

 てるは、一口食べて言った。

「でしょ?」

 私がすすめて食べたフレンチトーストを輝が美味しそうに食べるのを見て、心の中でガッツポーズをした。よしっ!

「俺、フレンチトースト食べるの初めてだわ」

 予想外の事実に思わず目を見開く。

「え!でも、この前食べたことあるみたいな口振りじゃなかった?」

「…いや、勘違いだったわ。フレンチトーストってフランスパンをトーストしたやつかと思っとった。」

 な、何ですと!?…どおりでフレンチトーストのことを話した時、『?』だらけの返信が来るわけだ。


 フレンチトースト?

 へぇ?

 そんなに有名なん?

 ふ~ん?フレンチトーストが…


 まさかフレンチトースト自体を認識してなかっただなんて…。衝撃を受けると共に、私は前にデートしたときのことを思い出していた。


 …そういえば、俺、クレープ食べるの初めてだ。おいしい。


 そう言いながら公園のベンチに二人、クレープを食べたこともあった。

 輝って意外と抜けてるのかしら。5年付き合ってきて、たまに気づく輝の特徴。そんなとき、私は申し訳ないと思いながらも彼を『かわいい』と思ってしまう。ごめんね、輝。

 ピコン!

 そんなことを考えていると、私のスマホが音を鳴らして震えた。

ことって俺のどこが好きなん?』

 輝からだった。

 え!何?いきなり。どうしたん?そんな感情が顔に出ていたのか、

『いや、別に変な意味じゃなくて…。単純に、なんで俺なんだろうと思って。』

 と、送られてきた。顔をあげると輝は黙々とフレンチトーストを頬張っていた。横に伏せたスマホを置いて。

 ん~、こういうときは何て言えば良いんだろ。何が正解なんだろ。口で言うのも言われるのも恥ずかしいからメッセージで送ってきたんだよね。そう思ってひとまず打ち始める。

『どこも何も全部好きだし、好きだから好きなんだけど、これじゃだめ?』

 あぁ~!だめだ。何これ、全然答えになってないじゃん!論理的じゃないし、こんなん送ったら残りの時間、輝の顔が直視できない。

 心の中でのたうち回りながら、悩んだ末、

『好きだから好き!』

 と、勢いで送った。

 わぁ~!1秒前の私、踏みとどまれ~!送った直後に後悔の波と冷や汗が押し寄せてきた。

 それを見た輝は、表情を変えずに黙ってを見ていた。

 ぎゃあ~!絶対失敗した。絶対納得いってない~!慌ててメッセージを追加する。

『しゃべってて面白いところ。』

『物知りなところ。』

『背が高いところ。』

『かっこいいところ。』

『一緒にいて落ち着くところ。』

『マナーが完璧なところ。』

『頭いいところ。』

『優しいことろ。』

 打ち間違えをしても気づかない程の勢いで思い付く限りのことを送った。

 ピコン!それを遮るように輝のメッセージが来た。

『わかった。』

『ありがと』

 あっさりした返信に横目で見ると、輝は打つ振りをしながらスマホを顔の前に持ってきて自分の顔を隠していた。

 照れてる…のかな。私も恥ずかしくてまともに顔見れないけど。

 そんなこんなで、お昼になり、互いに違う種類のパスタを頼んで、一口ずつ交換して「おいしいね」とか「何入っとるんだろ」とか言って、他愛もない話をしてその日は解散した。

 そうして、家に帰って気づいた。

「あ、手繋ぐの忘れてた…。」





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