第4夜 かささぎの姉御

真美まみさま~」

 学校に着いて、朝から目をキラキラさせながら少し膨らんだ小袋を持ってやって来たのは親友の琴音ことねだった。

 私の名前は、黒木くろき真美まみ。幼なじみの琴音とは、幼稚園からの大親友だ。ついでに言えば、琴音の恋人・鷲塚わしづか輝彦てるひこも幼なじみだが、特に接点もないので向こうも私のことを覚えているかさえ不明だ。

「おはよう」「おはよ!」聞いて聞いてオーラを出してくるからには、昨日早速鷲塚わしづかと連絡とったな?と思いつつ、

「朝から元気だね~。なんかあった?」と聞いてみる。

「うん、あった!」満面の笑みで答える琴音は昨夜の出来事を包み隠さず全て話してくれた。ご丁寧にぬいぐるみの下りまでもだ。

「良かったね、ちゃんとあっちから夏休みの予定聞いてくれて。」幸せそうな親友に、素直に感想を述べると、更に笑みを深めて、

「そうなんだよね~、やぁ~、流石さすが恋愛成就の真美様!よく分かっていらっしゃる!」なんだそのみたいなあだ名は。というか、何故そうなる。

「え~、だって昨日、真美がその話振ってくれなかったら、私、心の準備できてなかったもん。…だからはい!これ。昨日のお礼です!本当にありがと!」と、持ってきた小袋を私に渡す。中身はきっとお菓子だろう。琴音のお菓子はケーキ屋さん並みに美味しい。

 そんな大袈裟な…とは思ったが、琴音があまりに嬉しそうなので、『終わり良ければ全て良し』ということわざに乗っかることにした。

 そして、その日の放課後、私たちは、夏休みの課題を終わらせようと、図書室で勉強することになった。

「まぁ~み~」

 早くも飽きてきたのか図書室に着いて15分、琴音はすでにだらけ始めている。

「なに~?まだ1時間も経ってないよ。」

 うぅ~と唸る親友に喝を入れる。

「進まないなら家に帰る?」

「え!やだ!」真美と勉強する~と、駄々をこねる始末だ。

「分かった。じゃあ、ちょい休憩しよっか。私お茶飲んでくる。」そう言って、自分の水筒を持って飲食禁止の図書室を出る。

「あ!私も!」急いで琴音もついてくる。

ミーンミンミンミン

ジージジジジ

 廊下に出ると外の暑さがもわっときて、蝉の音も余計に近く聞こえた。私たちは水筒のお茶で喉を潤しながら、雲一つない空を眺めていた。

「真美」

「ん?」

 空から目を離さずに琴音は言った。

「今度のデートどーしよ。」

はぁ~

 また、この子は長くなりそうな話を…。

「…教室いこ。クーラーつくし、図書室だと話せないでしょ。」荷物はそのままに私たちは、誰も残っていない1年の教室に移動した。


「で、どうしよって何が?」

 本題に入ると、

「…どうやって手、繋げばいいんだろ。」

「はい?」

「だって、今までの…デートでてると手…繋いだことないんだもん。」

 まじか…。何度も思うけど、二人とも5年目だよね?!なんでそんなことになってるの。幼なじみだから?…全く、普段から連絡取ってないっていうのも心配だったけど、本当にこの二人大丈夫なの?

 と、心で思いながら、私自身まともに誰かと付き合ったことがないので、その後私たちは『自然な手の繋ぎ方』をいくつも考えながら練習してみた。我ながら滑稽だと思いつつも、私相手に照れながらも練習する親友を見て、やっぱり他人の恋をみる方が面白いなと、思った。それに、そんな琴音はやっぱり背中を押したくなるほど可愛いのだ。

 鷲塚、あんたの女をみる目は誉めてあげるよ。

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