第3夜 初めての七夕

「っしゃ!」

 達成感と嬉しさのあまり、一人、自分の部屋でガッツポーズをする。思いきって連絡してみて良かった。


 俺は鷲塚わしづか輝彦てるひこ。高3。中学では学校の中で1番の成績だったが、この高校では中の上くらいの成績だ。恋人の名は姫川ひめかわ琴音ことね。同じく高3。口下手でおっちょこちょいだけど、優しくて芯がある。〈かわいい〉より〈カッコいい〉が似合うような人だ。進路にまだ迷っている俺からしたら、ことはひときわ輝いて見える。

 そんな彼女と俺はここ最近連絡をとっていなかった。何も喧嘩したわけでもないし、冷めたわけでもない。いつもこんな感じなのだ。行事で会う1日前や、お互いに面白い曲や動画、小説を見つけた時には、メッセージを送りあって会話をしている。我ながら充実していると思う。

 でも、たまに思う。琴はこんな俺でいいのだろうかと。未だに分からない琴が俺を好きな理由。

 俺たちが付き合い始めたのは5年前、中2の夏だ。その日、俺の家に遊びに来ていた琴に俺が告白?したようなものだ。

 何故ここに『?』がつくのかというと、正直どう説明していいか分からない。これを他人に伝えるには、まず幼稚園の頃まで遡らなければならない。

 俺たちは幼稚園の頃から親同士の仲が良く、自然と二人で遊ぶことが多かった。いつも遊ぶ時、琴は最初なぜか緊張していた。かちんこちんになってソファーに座っていた。でも、数分後、気づけば「キャー!」と言いながらお互い夢中になって鬼ごっこやかくれんぼをしていた。二人とも汗かきだから、いつも汗だくになって。そうして過ごすうちに女子にとって最大のイベント『バレンタイン』がやって来る。物心ついたときから毎年、琴から貰っていたチョコ味の手作りお菓子は、とても美味しかった。(今思えばあの頃、ほとんどは琴のお母さんによって作られていたのだろうけど。)そして、毎年違うことが書いてあるメッセージカード。『またあそぼうね』『おにごっこたのしかったね』『またみどりぱーくいこうね』など。

 でも、毎年変わらない言葉がカードの一番下に大きく書かれていた。


だ~いすき


 これは…、このやりとり自体は、今まで1年も欠かさず続いた。もちろんこの度にホワイトデーにお返ししている。そして、毎年ついてくるカードの一番下に書かれている言葉も意味は全く変わらなかった。

『大好き!』

『好きです』

『I LOVE YOU!』

 流石に中学に入ってからこの手紙を受けとると正直、琴の気持ちが気になってしょうがなかった。琴は本当に俺のことが好きなのか。幼稚園からの付き合いで言ってるだけじゃないのか。まず、俺たちの関係はなんなんだ、と考えれば考えるほどよくわからなくなった。だから、中2の夏休み、うちに遊びに呼んで直接聞いてみることにした。

「…琴。」

「ん~?」

 漫画を読んでいた琴は俺の声に振り返る。

「返事…したほうがいいの?手紙の。」

「!」

 琴は一瞬驚いたような顔をした。

「え…あ、うん。どっちでも…。」

 と、煮え切らない答えが返ってきたので、

「そっか、じゃあいいや。」

 と言うと、

「!…や、やっぱりして!返事。」

 と、慌てて言うので

「俺も好きだよ。」即答した。

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