第27話 燃えるゴミの日
この街に越してきて一番困ったことは、ゴミの出し方だった。
ゴミの種類ごとに捨てる曜日が決まっているのはどこも同じだけど、以前住んでいた自治体とは内容が若干異なっていた。例えば燃えるゴミとして捨てていたプラスチックゴミの一部が、こちらでは受け付けられない。
「メンドウな所に来ちゃったな」とは思ったものの、少しくらいはズルしても大丈夫だろうとたかをくくっていた。
例えば、燃えるゴミの中に、外からわからないようにプラスチックゴミを混ぜる。 前の市では燃やせた。こちらでもがんばって燃えてもらおう。
ところが燃えるゴミの日、仕事から帰ると、我が家の玄関前にゴミ袋が置かれていた。
まぎれもなくその日の朝、ゴミ集積所に出していったもの。しかも「このゴミは分別されていません」という市のシールが貼ってあった。
ばれている。ということは、ゴミを管理している人が中を調べたのだろう。不用心にも、私は電気代の領収書などをそのまま捨てていたのだ。
私は意地になり、次のゴミの日は自分のそれとわかるものを別にして、やはりプラスチックを混ぜて捨てた。前のものと同じだと気取られないように、ゴミ袋も替えて。
それでも仕事から帰ると、部屋の前にプラスチックの混ざったゴミ袋が放置されていた。
あり得ない。いったい誰が私のゴミを漁っているの?
できることならすぐに引っ越したい。けれど今は経済的に苦しい……。
そもそもこのことさえなければ、完璧な物件なのだ。駅から近く、深夜まで営業しているスーパーやコンビニも周囲に豊富。それなりの家賃ではあるけれど、新しくて広い。大家さんもお隣さんもいい人っぽい。
あきらめた。きちんとプラスチックを分別し、燃えるゴミの日には燃えるゴミ、プラスチックゴミの日にはきちんと洗って乾かしたプラスチックゴミばかりを出した。
すると玄関先にゴミが放置されることは無くなった。
はじめは気持ち悪かったけれど、もとはと言えば私のずぼらが招いたこと。きちんと分別することで、私は晴れて、快適な生活を送れるようになったのだった。
ある休日。目を覚ますと、すでに昼下がりだった。
この日が燃えるゴミの日であったことを、すっかり忘れていた。私はゴミ出しをあきらめ、食料を買いに近所のコンビニへ出かけることにした。
ところが玄関のドアを開けようとしても、重くて開かない。何かがドアに寄り掛かっているらしい。体重をかけて無理やりドアを開けると、それがごとりと倒れた。
「なっ……!」
それは私の恋人だった男。
イケメンだけど、嘘つきで定職に就かず、暴力をふるい、私の金を巻き上げて他の女と遊びに行く。そんなゴミのような男。
そもそも私は、彼から逃げるために転居した。
けれど、この街にいることがばれた。
昨夜、部屋に帰るところを彼に捕まりそうになった私は、彼を突き飛ばしてしまった。
彼は電柱に頭をぶつけて気を失った。ちょうどゴミ集積所の前。
私はそのまま逃げ帰って、落ち着くために酒を飲んで……そういえばその後どうしたんだろう?
冷たくなった彼の額に、「このゴミは粗大ゴミです」と注意書きシールが貼ってあった。
「あっ、そっか」
私は納得して、彼を部屋の中に引きずり入れた。
(粗大ゴミでも小分けにすれば、燃えるゴミに出せるんだったわね)
手間だけど仕方ない。小分けにすれば運ぶのも簡単だし。
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