友達ロボット

諸根いつみ

第1話

「ミクちゃんいいなあ」

「わたしもほしい!」

「わたしなんて、友達ロボットも持ってないのに」

 ミクは、自分の部屋に遊びに来た小学校の同じクラスの友達に、新しく買ってもらったおもちゃを見せていた。

「ここを押すと、光って走るのよ」

 ミクは、友達マウスの腹のボタンを押し、床に走らせた。

「可愛い~」

「あ、棚の隙間に入っちゃったよ」

「呼ぶと戻ってくるの。おいで、ミーちゃん」

「わあ、ほんとだ。戻ってきた」

「わたしが呼んでも戻ってくるかな?」

「戻ってくるよ」

 ミクは再びボタンを押し、友達マウスを棚の隙間に入れた。

「おいで、ミーちゃん」

 マナちゃんが友達マウスを呼ぶ。

「おいで、ミーちゃん」

 友達マウスは戻ってこない。

「あれ?」

 アカリちゃんが、棚の隙間をのぞき込む。

「引っかかって、動けなくなってるみたい」

「ほんと?ちょっと待って」

 ミクは、部屋の隅に向かって声をかける。

「オリバー、ちょっと来て」

 友達ロボットのオリバーがやってきた。

「どうしたの?ミクちゃん」

 内蔵スピーカーから、ロボットらしい声が出る。

「ちょっとこの棚を動かして。隙間にミーちゃんが挟まったみたいなの」

「わかった」

 オリバーは、棚を動かした。友達マウスを手に取り、ミクに渡す。

「出てきた!」

 ユウカちゃんが叫ぶ。

「やっぱりオリバーってお利口なんだね」

「あー、ほしいなあ、友達ロボットも友達マウスも。もう一度、パパに頼もう」

「あ、友達ロボットの新作が出るから、今度買ってもらおうかと思ってるの。そしたら、マナちゃんにオリバーをあげるね」

「本当?」

「新作?羨まし―」

「ミクちゃん優しい」

 みんな、すっかり感心したみたいで、ミクは気分がよかった。

 翌日、ミクは友達マウスで遊ぼうかと思い、おもちゃ箱を探したが、見当たらなかった。

「オリバー、ミーちゃんを知らない?」

 ミクはオリバーに尋ねる。

「ミクちゃん、ミーちゃんはね、僕が捨てたよ」

「え?どういうこと!?」

 ミクは、オリバーの言葉に目を丸くした。すぐに驚きは怒りに変わった。

「わかった!あんたはミーちゃんに嫉妬したのね!?ミーちゃんは新しくて、自分は古いから!こんな悪いロボット、友達にあげるなんてできないわ!あんたなんか、すぐに捨ててやる!」

 ミクはお母さんに頼み、さっそくオリバーを専用のダストシュートから捨ててもらった。それで、オリバーはすっかり溶かされてしまった。

 その日、夕食を食べながらテレビを見ていると、おもちゃ会社のリコールのニュースが流れた。

「あれ、この間買ってあげた友達マウスじゃない?」

 お母さんは声を上げた。

「異常な熱を発し、火傷の危険……今すぐ捨てないと」

「もうないわ」

 ミクはつぶやいた。そこで、ミクは、オリバーが友達マウスを捨てたことを話した。

「そうなの」

 お母さんはうなずく。

「オリバーは、友達マウスの欠陥に気づいたのね。でも、ミクが新しいおもちゃを手放すはずがないから、なにも言わずに捨てたんだわ」

「だったら、自分が捨てられる前に、さっさとそう言えばよかったのに」

 ミクは席を立った。

「もう食べないの?」

「うん、お腹いっぱい。ごちそうさま」

 ミクは自分の部屋へ戻り、一人でベッドに顔をうずめて、泣いた。

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友達ロボット 諸根いつみ @morone77

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