第2話 招待状
廃都になった道のない道を抜け、誰も近寄らないであろう不気味な暗さを昼でも保っている森の中に入っていき、唯一少し濁ってはいるけれど、飲める水の流れている小川を越えた所に見えてくる廃材で建てられた今にも崩壊してしまいそうな小さな小屋が
「到着…っと」
俺の家だ。
家の扉まで移動し、小さくコンコン…とノックをする。すると扉の向こう側から小さく声がした。
「ジゼルの髪は?」
その声は大人の男性の声だ。その低音ボイスは男の俺でもいい声だ…と思うくらい耳に心地良さを与える。
その問いに俺は答えた。
「ジゼルの髪は灰色、アリスの髪は黒色」
答えると、数秒経って扉が開いた。
中から出てきたのは先程のいい声の持ち主の男だ。
「おかえりなさいソーマ。遅かったですね」
この男の名前は
26歳。高身長。そして生地はボロボロだが執事服を着ている。18歳の俺からしてみればカッコ良い理想の大人だ。
ジゼルの後を追い、小屋の中へ俺は入っていった。
小屋の中は外観とは裏腹に綺麗に整頓されており、小さい空間だが、3人程は寝られるスペースがある。
「あれ?アリスは?」
「お嬢様は今水浴びをしてらっしゃいます」
俺の問いにジゼルが答える。アリスというのはもう一人の仲間の事である。
俺はここでジゼルとアリスと共に暮らしている。
ジゼルとアリスは元々、放浪の民の人間ではない。
別のブロックから来たのだが…この2人についてわかっている事、それは、アリスは元お嬢様だった。そしてジゼルはその執事だったという事くらいだ。
まぁ、”だった”って言うとジゼルは”今でも”です。と言って怒るんだけど。
「今回はどうでした?」
ジゼルがふと俺の背負っている荷物に目をやり聞いてきた。
「まだ中身見てねーんだ。一緒に中身整理してくれよ」
「分かりました」
俺は盗んだ荷物を部屋の中央でひっくり返し中身をドサぁー!
色んな物が入っていた。そしてすぐに気がついた。
「これ、元々盗まれたやつか」
今まで沢山の物を盗んできた俺には分かる。荷物の中身に統一性がないのと、明らかに持ち歩かないであろう物が混じっている。
これは荷物が盗みに盗まれ次々と盗品がこの荷物の中に納められていった証拠である。
「流石ですね。ソーマは勘が良い」
感心しているジゼルに「よしてくれよ。褒められる事じゃない」と言い盗品を物色する。
そう、褒められる様な事ではない。いくら生きていく為の盗みのスキルだとしても、盗みは立派な犯罪だ。
それに、俺が盗んだ事で絶望の淵に立たされる奴らの死んだ様な顔を嫌というほど見てきた。
黙々と盗品を物色する俺を横目にジゼルは申し訳なさそうな表情を浮かべる。
「ソーマにはいつも汚れ仕事をさせてしまい、すみません」
「はははっ!何言ってるんだよ!そんな事気にすんなって!」
ソーマは屈託のない笑顔を見せ盗品の中から卵とベーコンを手に取り
「今日も美味いもん食わしてくれよ!」
にかっ!と笑った。
ソーマの笑顔には今まで何回も助けられた。いつかお礼をしなければとジゼルは思う。
「腕によりをかけて」
ジゼルはソーマから卵とベーコンを受け取り、火起こしに外へと向かった。
ジゼルが家を出るのを見送った後、盗品の中から1枚の和紙を取り出す。
「…”ボーカー”…平和の楽園へのご招待……か」
それはこの48のブロックからなる国、”夢見の王国”の何処かにあると言われている、争いのない平和の楽園”ボーカー”への招待状だった。
俺は、俺はずっとボーカーに行く事を夢見ていた。
俺だけじゃない、この放浪の民の連中、他のブロックの奴ら、全ての人間がボーカーに住む事を夢見ている。
「……罠か?いやでも…」
「何を見ているの?」
!?ばっ!!と俺は反射的に後ずさった。
「あっ、ごめんね?驚かせちゃった?」
「あ、あぁ、アリスか!」
この女の子はアリス。苗字は知らない。黒髪の長い髪が特徴的で分け隔てない優しさを持っている。俺と同い年だ。
「水浴びは終わったのか?」
「うん。髪が中々乾かなくて…切っちゃおうかな。髪の毛」
「えー、俺はアリスの今の髪好きだけどな」
そ、そぅ?とアリスは頬を桜色に染めちょっとだけ嬉しそうだ。
「じゃあ切るのやめる!」
「そっか!」
アリスはソーマの右手に掴んである和紙を見つめる。
「あーコレ?」
ソーマは和紙をアリスに手渡した。
和紙の内容を確認したアリスは驚きの表情を見せ、動揺しだした。
「こっ、これってっ…本当なの?!」
「どーだかなぁ…アリスはどう思う?」
「…私は……」
きっとソーマは私や櫻木よりもボーカーに行きたい気持ちが凄く強いはず。
でも、私たちに気を使って、きっとはっきり言えないんだ。ボーカーに行くって。
それだったら私は……
「ソーマについて行く!」
「そう来なくっちゃな!」
ソーマはジゼルにボーカーに行こうって伝えてくる!と言って家を飛び出していった。
「長い旅になるわね。しっかり荷作りしないと」
私は先の見えない危険な旅にでるはずなのに、何故か不思議と楽しみでならなかった。
第2話 招待状 ~end~
次回予告。
俺は存在がばれないよう、気配を極限にまで殺す。
その隙に
音を立てず、瞬時に荷物をすり替えた。
次回 第3話 盗人の葛藤
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