第5話 ダイブ・トゥ・マスマティカル・ワールド
俺は真っ裸にされて、大事なところだけバスタオルで隠されてベットに寝せられた。
それだけならまだしも……
「先輩。こっちみたら一生許しませんからね。具体的には一生面倒見てもらいますからね」
「ひっ!」
「なんですか『ひっ!』って。そんな恐怖に満ちた顔して必死に顔背けなくても良いじゃないですか。そんな一生面倒見るの嫌なんですか!」
横には同じように素っ裸にされたキャンディ。もちろん、バスタルをかけられて大事なところは上も下も隠されているのだが……
——チラ。
「ああ、見ましたね。見ましたね。今、見ましたね。横目で見ましたね!」
「いや見てない。絶対見てない。見るわけがない」
「ああ、そうですね。見たくないでんですか。私の体なんて見たくないんですかそうですか」
「いや、まて……落ち着いて……体起こすな。はだける。タオルが、はだける」
「キャ! 先輩の変態」
ほんと、見ると怒られ、見ないと拗ねられ、どうしろっていうんだ!
ヒリヒリするほっぺたの平手のあとを、涙を流して冷やしたい気分の俺であった。
「まあ、ともかく落ち着け。動くと危ない」
「…………先輩がこっち見なきゃいいだけですからね」
しかしな。意外にも破壊力のある体形であったことがタオル越しにでもよくわかるキャンディであった。いや、いくら実は美少女で、からだもダイナマイトなことがわかっても、普段の残念さを知る俺はこいつを恋愛対象になんかは絶対見れないのだが……しかしすぐ横にうら若き女性が素っ裸で横たわっていると言うシチュエーションはなんとも……
「しかしなんで裸にならなくちゃいけないんだ? 夢の中に入るだけならただ寝ればいいだけじゃないのか?」
「裸にならなきゃダメなんです。身を清めて、生まれたままの姿で夢魔の侵入を受け入れないとダメなんです。服なんて雑音があると、精神が不純になって本当の自分を表すことができなくなるんです」
「そうなのか?」
「そうです!」
身を清めると言われてシャワーを浴びさせられて、火照った体からほんのり薫る良いシャンプーの匂い。さっきまでの変なメイクも落として、素の美少女顔になったキャンディ。その体温が感じられるような近くに俺は寝ていて……正直ちょっと心がくらっとする。ほんとこいつがここまで残念でなければな。と俺は改めて思いながら、
「そうですよねリルさん」
キャンディがあらためて夢魔のお姉さんに裸の必要性を確かめているのを聞く。
すると、
「関係ないよ。別に裸にならなくたって」
いきなりハシゴを外されているキャンディであった。
「ええ! だって『素の自分になってベットに横たわりなさい』ってリルさん言ってたじゃないですか」
「べつに余計なことを考えずに横たわれって言うことで、裸になれって言った覚えは全くないんだけどね……勝手に裸になるのを別に止める理由もないのでそのまま放っておいたけど」
「…………」
まあ、そんなとこかと思ったが。
「でも、今日は無駄でもないよ」
「え?」
「お前はこっちの男と同じ夢の中に入らなければいけないからね。となるとこのまままぐわうのが一番良いからな」
——はい?
「互いに脱がせる手間が省けたというもんだね。私はいないもんだと思って……」
リルさんは唇を淫靡に舌なめずりしながら言った。
「さっさとヤることヤっちまってね」
*
危うく、本気で一生責任取らされかねない行為を強要されかけた俺らだったが、さすがにそれはとリルさんを説得した結果。それならと渡されたのがポッキーであった。
いや、こっちの世界での名前はポッキーでなく
いや、それはゲームでない。なんでも、この世界では、それがまぐわらずに同じ夢に入る儀式になる。夢魔のお姉さんはそう言うのだった。
その指示にしたがって、俺とキャンデイは寝たまま顔を向かい合わせて、この世界のポッキーもどきの両端を口に入れる。そして両方が食べ進めて、二人の唇が触れ合うかと言う瞬間——二人は同じ夢に入ると言うことであるが……
本当にこんなので大丈夫なのか?
「さあ、さあ、そんな離れていては同じ夢に入ることなんてできないよ。もっとぐっと近づいて」
もう、キャンディの吐息を感じそうなまでに俺は近づいているのだが。ポッキーはまだ四分の一くらいは残っている。確かに、これくらいで諦めていてはポッキーゲーム的にも見ている人は納得しないだろうが。
「しぇんぱい(先輩)だへ(ダメ)です。しょっち(そっち)から」
キャンディはもう怖くて動けなくなってしまったようだった。これがポッキーゲームなら俺の勝ちになるところだが、これはゲームでないし勝つのも目的でない。同じ夢に入るための儀式だと言うのだ。これをしないのなら、
「ふふ、やっぱりまぐあうしかないようだね」
いやいや、それはまずい。ここ最近の付き合いで、
俺は意を決して、さらにこの世界のポッキーもどきを食べ進める。残り数ミリ。もうキャンディの唇の感触も感じるかと言うような場所まで食べ進める。
しかし、それ以上、もう一口でどうしてもこれはキスせざるをえないと言う場所からピクリとも動けない。本当に、キスする直前で俺たちは夢に入るんだよな? 実は全部嘘で、夢魔のお姉さんにしくまれてて、このままキスしちゃうんじゃないよな? キャンディのあの様子じゃ、キスも初めてそうな感じだし、それだけでも責任とれとか言ってくるんじゃないだろうな?
そんなことを思えば、俺の体、というか口は、その位置でピタリと止まってしまう。
「ああ。じれったい。早くしてくださいませ。私も次のお客さんの予約も入ってて時間ないんだよ」
そんな俺たちをなじるように夢魔のリルさんは急かして言うが、一度止まってしまったまま、踏ん切りがつかずに、その数ミリを緊張して必死に保っているのだが、
「そうさね。無理なんだね。こんなお子ちゃま達には、魔法式の革命をするなんてのは。私に相談にくるのはせめてオムツが取れてからにするんだね」
——なにを!
なんだか安い挑発で、煽られているのはわかるが、俺の魔法式への思いをバカにされるのは許せない。俺は、ならば、ポッキーをさらに食べるべくカッと目を見開いて、頭を前に出す。
すると、俺と同じように目を見開いていたキャンディも、同じ思いで顔をぐっと前に出し……
「あれ?」
俺は、真っ白で何もない空間で目を覚ました。なんとなく薄もやがかかってぼんやりとしていて、自分の体も意識しないと消えてしまような、何もかも曖昧な空間。
「夢の中に入ったのかな?」
「そうさね」
振り向けばそこにリルさん——妖艶な夢魔が、胸の大きくあいた皮のボディスーツに身を包み、蠱惑的な笑みを浮かべながら俺のことを見下ろしていた。
でも俺は夢に入れたとして、キャンディは?
「ほらそっちさね」
リルさんのさす方向に顔を向けると、
「先輩……」
薄もやの中から浮かび上がるようにキャンディが現れる。
「あれ?」
その体は何も身につけない裸身のままであったが、なんとなくぼんやりとしてその姿の詳細が捉えられない。
「ん? 私、裸……と言うか体見えないですか」
首肯する俺。
「ここは夢の世界さね。強く意識しないと何もかもが曖昧になるし、逆に強く思えば何もかもが思うがままに強烈になる。お二人さんがこのまま淫夢を見たいなら、夢魔の本領としてそっちに誘導してあげるさね。あるいは私がお相手差し上げてもよろしいさね」
と言いながら、体を艶かしくくねらせるリルさんのその姿は、男子ならばまずは衝動を抑えられないだろうエロさであったが、
「いえ、俺は今回そう言うことをしに来たのではないですから……」
「ふふ。キャンディもそれで良いこと?」
もちろん、しっかりと首肯するキャンディ。
「ふたりとも真面目なこと。でも良いわ。そう言う真面目で一途な子たちほど私には美味しいのよね。あなた達は、今、そんなことよりももっとエロいことを望んでいるんでしょ」
「それは……」
「そうです」
キャンディの言葉を遮るように俺は言う。
「俺は、もっとエロいことをしたいんです。お姉さんとのエッチなんかよりも、もっとこころ踊ることを。新しい
「ふふふふ、ふふふふ、ふああははっはははははは——」
俺の言葉を聞いて、リルさんは心底面白そうに笑った。
「いいよ。あなた良いわよ。この体よりも……」
胸をグッと突き出すリルさん。
「魔法式をこねくり回す方が良いと?」
俺は、ぐっと唾を飲み込みながらも、強く首肯する。
「いいさね。いいわね。良いわ、あなた。すごい変態ね。女体よりも魔法式が良いと?」
もう一度俺は首肯する。
「はは、そっちのキャンディと同じね。こうやって毎回私の作る淫夢の中に来ても、肉の快楽よりも、魔法式の方が快楽だと言う。変態ね。あなた達は変人で変態だわ。でも……」
リルさんは手を頭の上に掲げ、なにやら魔法陣をその先に作り出す。
「私も実はそんないやらしい女なのよ! さあ、入りましょう! そんあ変人達の世界へ!」
その瞬間、俺たち三人は魔法陣の中をくぐり抜け、魔法式の世界の中にいたのだった。
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