もう一年半になる。

産まれてからずっと覚えてきた

その記憶が少し曖昧になる。


私が居たあの場所は

今もそのままだろうか。

あの時隣に居た小さな弟は

もう私の背を越したらしい。

このままだと全部変わってしまう。

帰らねば。


夢の中で猫が鳴いている。

いつか雪の上を駆けたあの子。

この冬、私は雪を見なかった。

街が雨に濡れた匂いと

うだるような暑さにも。


このまま帰るわけにはいかない。

私は何も成してはいない。

不安がまとわりついて来る。

成し遂げたところで、

一体その次はどうすればいい。


サマータイムが終わり、

体の中で時間が狂って

夜の冷たさに驚く。

やかんがぴーっと鳴って、

私はまだ、帰らない。


一体この世はどうやって

回っているのだろう。

どう考えてみたってお金が足りぬ。

皆借金してるんじゃないか。

それに知らぬふりをして

家族で夕飯を食べながら

笑っているんじゃないだろうか。


明日することは決まっているが

したいことは何もできない。

心の不安が拭えないまま

空いた時間を布団の下で無駄にする。


お金持ちにはそりゃなりたいが

そんなことは正直どうでもいい。

ただもう何も考えたくはない。

保険も税金も家賃も生活費も

残高を気にせず暮らしたい。


帰ったところで何も変わらぬ。

夜に溢れる光が恋しい。

早朝五時まで空いているラーメン屋。

人で溢れたプラットホーム。

単調な電車の走る音。


戦後はただの焼け野原だったようだよ。

今では地下もぽっかり空いている。

何もないところから、

どうしてここまでできたのか。


何もかも与えて貰っても

何もできずにもがいている。

山の中に立ち並ぶ豪邸と

ホームレスで溢れたバスと。


私は明日どうしようか。

このまま一体どう転ぶのか。

すれ違う人の目は

血走っているか、飛んでいるか。


歳だけ取ってゆく。

気づけばまた一年が終わる。

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底辺 碧い紅葉 @acer_momiji

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