ごはん



ごはんを一人で

食べるのが嫌になった


物心着いた時には

弟たちがいた


母には反抗したけれど

その手料理はいつも私を黙らせた


父は黙って何でも食べた

皆の残りも全部食べた


離れて暮らすようになって

一人でごはんを食べることが

多くなった


一緒に暮らしている人は居たけれど

広い家の中で

たまにしか会わなかった


また引っ越して

今度は狭いアパートで

友達と暮らすことになった


時々彼らのごはんに

混ぜてもらっているけれど

やっぱり一人で

食べることが多かった


貴方が言った

週に一度は家で

ごはんを一緒に食べよう

お互い代わり番こに料理をして


それから毎週

貴方は仕事帰りに

訪れてくれるようになった


色々なものを作った

代わり番こに


肉じゃが 筑前煮 ハンバーグ

栗ご飯 ミネストローネ チキン南蛮...

今ではもう数え切れない


美味しいと笑ってくれて

張り切ってキッチンに立つ背中

食器を洗ってくれて、

お茶碗を割っても慰めてくれて、

買い物をしていても

貴方が好きそうなメニューばかり

考えるようになって、


そして私

ごはんを一人で

食べるのが嫌になった


弟たちはいつも騒がしく

母ががみがみと言うのが嫌で

父はいつも黙ったまま

だから一人でごはんを食べるのに

ほっとしていた時もあった


でももう私

貴方と一緒にいないと

何故だかまるで箸がすすみません


貴方と会うまで

ごはんの食べ方を

まるで忘れていた気がします


こんなにあったかくて幸せで

お腹と一緒に心まで

満たされるものだったとは


だからもう

ごはんを一人で

食べるのが嫌になった

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