灼熱は真実を捉えるのか 6
滝公園の駐車場にて。
騒動が思わぬ広がりを見せる可能性が、どうにも否定し辛い状況にある中で、不知火は、表情の強張りと身震いに、自分が住んでいる世界がどういうものだったのかを、改めて痛感していた。世界がどれだけ平和でも、裏であり闇であるこの場所では関係ない。常に時は動き、想像もしない脅威はすぐ隣で息を潜め、安定と平静を壊しに来るのだ。
その時訪れた不知火の通信札の反応は、和川奈月からもたらされたものだった。
不知火は懐の紙を掴む。
「丁度よかった和川奈月。今君に依頼した人捜しに関して分かったことがあるんだ。実は先程のリチャード=ドレークだけど――」
『なあ、大和』
不知火は呆れながら、
「なんだい和川奈月。今重要な情報を一つ――」
『おかしくないか? ここ』
不知火が言い終える前に、和川は『ここ』という表現をした。
通信札には発信者の位置情報を正確に伝える特徴がある。明確な場所を言わずとも、着信者の不知火にはその場所がどこなのかが分かる。
だが、
「和川奈月……、君は一体、どこにいるんだ……?」
不知火の言葉に怪訝な表情を浮かべたのは神田川だった。そんなことわざわざ聞かずとも分かるだろうという意味での訝しさだったのだが。
不知火には見えた。航空図のGPSのような表示方法で、脳内の地図上に和川の所在地が。
だが分からなかった。
分からなかったのではない。分かったのだが、理解が出来なかった。
何故なら。
「待て、和川奈月……。そこは、この駐車場に辿り着く為に本来通るべき最短の順路じゃないか……おかしい……、僕らはそこを通った記憶がない」
この滝公園は広い。そして不知火らがいるのは、名前の元にもなった『滝』へ向かう為の駐車場。つまり、この公園の中でも最も自然の残る、比較的上流にあたる場所なのだ。
ということは、ここに辿り着く為には、ありとあらゆる施設を横目に、山に登るように、上流を目指すように坂道を上がってくる必要がある。滝は平地ではなく、高地にあるからだ。
ならば、その途中には何がある。
公園は広い。野球のグラウンドもあれば、前衛芸術的な体験型施設も、イベントスペースもある。あと、何がある。
不知火には見えたのだ。和川の居場所が。
本来通るべき道なのに、何故か通ることのなかった場所。灯台もと暗し、とも違う。そこにあることを知っているのに、『近付くことの出来なかった』場所。
和川は、その目の前に立っている。
そこは、寂れた、小さな遊園地だった。
何故その場所の存在を確認出来ていなかったのか。不知火は考えて、行き着く答えは、
「まさか……、人払いにでも引っかかったとでも言うのか……」
人払い。効果範囲の内部から人を追い出し、外部からの進入、及び接近を、極めて自然な流れで阻害する、あくまで『一般人を魔術から遠ざける魔術』だ。魔術師は、人払い程度の魔術では影響を受けないし、勘付くことも出来る。その筈ではないのか。
『なあ、大和、俺はどうしたらいい?』
和川は、事の深刻さを自覚しながら、不知火オーディン大和に委ねる。
「……神田川さん」
「ああ、状況は理解した。そりゃあ、相当の使い手で人払い的ななんらかを使われたんだろう。それこそ、坊主でもなければ気付けまい」
「だとしたら……」
「貸せ」と言うと、神田川は不知火から通信札を半ば強引に奪うような形で取る。「いいか坊主。今から一度こっちに戻ってこい。合流する。恐らくお前も、『意識的』に近付かないとそこには辿り着けないだろうから、そこの位置は覚えておけ。いいか? 位置は覚えたまま、俺達と合流する」
『で……、どうすれば……』
「応援は期待できない状況になった。ならば、三人で突入するしかない」
そして、そこには、
「魔術師、サミュエル=ジョーンズと、嘉多蔵嬢がいることだろうさ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます