第48話*天使の帰還*

 召集状から始まり、あれからまだ数回しか歩いてないこの参道の装飾にも目が慣れてきた。

 神殿中央にある階段を上がり、拝礼する場所に着けばベート様がいる。

 広いがいつも人影はなく、ここでベート様以外で見たことがある者といえばソラぐらいだ。説教されたり、編入できるように交渉したのもここであった。

 今回も同じようにベート様の前に進むが、話は始まらず奥の方へと身振りで案内される。従い、岩戸の前まで進むとそれを正面にして私は立ち止まった。

 そして後ろに続いて来ていたベート様は、あの時急に現われたところまで移動してから私の方へ振り向いた。

 岩戸は閉まったままだが、神様にご報告というところであろう。

 そして話は始まる。

「リカ、信仰は集まりましたか?」

 ベート様は、やさしく尋ねてくる。

「いえ、集まらなかったと思います」

「そうですか。それでもあなたはお勤めを果たすべく努力しました。編入の手続きは済ませてあります。これからも神のために尽くしてください」

 集められなかったという答えを気にする様子もない柔らかな表情だ。

「分かりました、ベート様」

 足並みを揃えるように穏やかに返事をした私は、続けて発言する。

「最後にひとつだけ言わせてください」

「なんでしょう?」

「私の経験では、写し世に神はいらないみたいです」

 それを聞いても、ベート様は表情を変えないどころか微動だにしなかった。

 私は岩戸を背にするよう向きを変え、立ち去るために歩き出す。

 落ち着いたままの足取りで、少しずつ距離が開いていく。

 途中、後ろから石がすれるような大きな音が聞こえると共に、歩いていても分かるぐらい地面が振動する。岩戸が開いたのだろう。だが、私は振り返ることはなかった。

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