朝凪の章
第44話*犯人探し*~合宿初日~
集合場所である部室は狭い、そして暑い。
「あとは瑠奈だね。変なもの持ってこなければいいけど」
里見先生はパイプ椅子の上で体を重そうにしている。このまま寝てしまわないように、トークでもしておくかな。
「今年は六人なのに私服のままでいいって、結局人数関係ないんですね?」
「そうだな。あの辺人少ないから制服なんて着てなくても、焚口みたいな変わり者ならすぐに正体がバレて連絡がくるから私服でも同じだな」
先生の嫌みが終わると、瑠奈が登校してきた。
「みなさん、おはようございます」
ジー。
「何ですか? 部長」
「遅いから白衣でも探してたのかと思ったけど、普通の格好だなって」
「当たり前じゃないですか。人を何だと思っているんです。さあ、行きましょう」
私の読みはハズレた。
微妙に悔しい裏腹な気持ちは置いといて、駐車場に行けば今年もレンタカーがとめてある。
「先生これ、七人乗れるんですか?」
「ミニバンだけど乗れるよ」
車は先生の実家へ向けて出発した。
乗るには乗れたけど、背が低いというだけで三列目になった小袖と雅は狭そうにいているし、二列目は二列目で真ん中でサンドイッチ状態の李華が窮屈そうに見える。
「荷物もあるから、もっと大きいの借りてこればよかったな」
「先生、今頃言っても遅いですよ」
「そう言うなよ焚口。レンタカー代、自腹なんだから」
確かに部の会計簿には、実家へのお礼代の項目はあるけどレンタカー代はない。あの金額じゃ車代には回せないだろう。
「お金の話といえば、合宿に行く部員が増えたから補助を増やしてくれるよう生徒会にかけあったんですけど、予備費がないって断られたんで事情を聞いたんですよ。そしたら屋上の鍵を直すお金が必要で使ったって言うんですが、そんなことありますか?」
「普通はないよな。でも、その話は俺も聞いてるよ。学校側が犯人探しをしない約束で、生徒会が会費から肩代わりして出したんだって」
「生徒会がそんなことしてたなんて……」
ただケチってたわけじゃないのか。
「全く、誰が壊したんだよ。なあ、李華?」
「な、なんで部長、私に言うわけ? そんなことよりほら、海が見えてきたぜ」
李華の言葉に、雅が窓に張り付く。
「港にはクレーンがいっぱいですね。先に、橋が二つ見えます」
小袖はここぞとばかりに、去年先生から得た知識を披露している。
しかし、橋を二つとも渡るとそうはいかない。
「小袖先輩、あの大きな赤と白のタンクは何ですか?」
「えー……」
「小袖先輩?」
「私が説明しよう!」
瑠奈が出てくる。
「あれは製鉄に使うコークスを石炭から作る際に出たガスを貯蔵しているんだ。そのガスは他でまた、燃料として使えるわけだ」
「瑠奈先輩、詳しいですね!」
「まあな。元科学部として常識だな。それよりもこの辺に大規模な太陽光発電所があるはずなんだが、草が生い茂っていて風車しか見えないな」
海ほたるに着くと、意気消沈してしまった小袖をはげますことにする。
「小袖、ソフトクリーム買ってあげるから気を落とすなよ」
「部長、大丈夫です。それは予定のうちなんで自分で買います」
本当に困ったやつだな。しょうがない。
「今回は先生の実家にお土産買ってくか。どうせ、みんなで食べることになると思うし」
お土産を買うと、小袖はうれしそうに抱えて車に戻る。
食べる気満々だな。
車内はきっちきちであったが、今年も無事に到着する。
「パパさんママさーん」
私は今年も出迎えてくれた二人に駆け寄る。
「紗綾ちゃん、今年も来てくれたんだね」
「はい、来ちゃいました。今年は二人増えて一層ご迷惑おかけしますが、よろしくお願いします」
「「「「「よろしくお願いします!」」」」」
「迷惑だなんて、ささ入って」
泊まるのはいつもと同じ部屋ということで、私が先導してみんなを二階まで連れて行く。
「小袖、お土産渡した?」
「いえ、まだです」
「じゃあ先に、渡しに行こうよ」
私と小袖で下りて行くと、居間で六人分の座布団をどう並べるか由美子さんが考えていた。
「あの、これ」
私は、お土産を差し出す。
「もうそんな、気使わなくていいのに」
渡し終わり、二階へ戻ろうとすると小袖が私を指で突き、その指で庭を差す。
縁側の向こうには、今年もトマトが鈴なりである。
どうゆうカラクリなんだ……。
こうして今日も、日が落ちていく。
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