第45話*代打*~合宿二日目~
朝、ご飯を食べ終わると李華がいない。
気にせず今日は畑仕事だと、体操着に着替え長靴を履き外に出る。と、なんとそこで李華が、車内にビニールを敷いている里見先生を手伝っているのだ。
台風でも来ないかと心配になる。
「焚口、みんな揃ったのか?」
「はい、先生。小袖はパパさんの軽トラに乗りたいって言って、助手席に乗せてもらって先に行っちゃいました」
「あいつ、よくわからんな」
里見先生はそう言うと、私たちを乗せて出発した。
畑の倉庫に着くと、エンジンの音が聞こえてくる。
このためまでとは言わないけど、去年より今年は一週間遅くなるように来ていた。
倉庫の中ではパパさんがあのメカの準備をしている。
「運転したいです」
小袖が横で、無理を言っている。
「動かすぞ」
パパさんが言う。
「渋川、危ないから離れてろ」
里見先生の注意を受け離れると、いよいよコンバインは畑に進んで行く。
コンバインは収穫したとうもろこしを横にあるスロープのようなものに次々載せていき、後ろのでっかい網かごに入れている。
畑の外で見ている私たちに出番なしだ。
コンバインは倉庫に戻ってくると、後ろのかごを降ろした。
「先生、この先どうするんですか?」
「渋川には残念かもしれないな。大きさごとに選別して、一つひとつ手で拭いて箱詰めする」
「ええ、わざわざ手で拭くんですか?」
「ああ、かぼちゃなんて拭くというかブラシで磨くからね。そっちの磨くのは機械だけど、今日はやらない。大したことない機械だからいいだろ?」
「うーん」
小袖は口を尖らせ面白くなさそうにしている。
小袖の期待はともかく、そんなことを一つひとつしているのかと私は驚いた。そういや箱に入ってる野菜、土ついてないもんな。
ママさんも到着して箱詰めを開始する。
「手伝います!」
みんなで拭く手伝いをするが、拭く事しかできないので仕事がなくなる。
「じゃあ、父さん母さん先に戻ってるね」
お昼にするために車で家へ戻る途中、ふと聞いてみる。
「先生も大きさとか見分けつくんですか?」
「俺? 無理。全然やってこなかったから」
なんだ、里見先生手伝ったことないんだ……。
家の前まで戻ってから思う。お昼は誰が作るのだろうかと。
「みんなお帰りー。収穫はどうだった?」
玄関を入れば、優菜さんがエプロン姿ではないか!
「もうすぐできるから、手を洗ったら居間で待ってて」
瑠奈と雅が顔を見合わせている。二人の気持ちも分かるが、心配しなくても彼女は詐欺師ではない。
居間で二人に里見先生が騙されていないこと教えていると、すぐに優菜さんの呼び声が台所から聞こえてくる。
「できたから自分の分、持って行って」
一人一皿。うむ、冷やし中華だ。
短冊切りされた、きゅうり、ハム、卵焼きを山の形に盛り、紅しょうがも少々でいいのだが、トマト満載だな……。
ちゅるちゅると食べ始める。
「八人分も大変でしたよね。すいません」
里見先生は優菜さんに申し訳なさそうな口ぶりで話すが、顔はニタニタである。
「私は一回だけですからいいですけど、由美子さんは毎回で大変だと思いますよ。みんなも手伝ってあげてね」
そんな微笑ましい食卓の横で、庭のトマトを鳥が狙っていた。
「瑠奈先輩! ここは鉄砲ですよ」
雅が言うと瑠奈は、
「鉄砲は高峰先輩に預けてきたよ」
と言うので、私は嫌な予感がした。
「高峰さんに?」
「はい。菜園の見張りを誰に頼もうか迷ったのですが、小袖が紹介してくれたので」
「ちょっと待て。私も小袖の案で、栗山に水やりを頼んだのだが」
沈黙が走る。
野球部に関わった者なら、言わずもがなだ。
ゲッホ、ゲッホ。
そんなところで李華が酢で咽るので、その苦しみは注目を集める。
いまだ!!
私はチャンスを逃さなかった。トマトを真空の皿にワープさせる。
庭の残りは鳥の働きに賭けるだけだ。
そしてその鳥の代わりなった栗山は、私の中で二階級特進させることにした。
夜になり、先にお風呂を済ませた私と真空は部屋で二人きりになる。
「ねえ、真空は国立狙いでしょ?」
「狙いというか、受けるならそのつもり」
受験の話だ。
「紗綾はその口ぶりだと私立?」
「そりゃ推薦もらわないと自信ないし」
すぐに李華と小袖が来て、そこに瑠奈と雅も来れば、
「枕投げやろうぜ」
と、李華が言い出す。
こいつ去年も言ってたよな。
「いいわ、受けて立ちましょ」
真空の返事には驚いたけど、やるからには負けられない。
その夜、弾丸のように飛んでくるそばがらの枕により、私たちは悪夢へといざなわれるのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます