第41話*スナイパールナ*

 昨日は部長、慌ててたな。

「李華、知ってた? 部活の活動時間に制限があるなんて」

「知るわけねえだろ。それより小袖、朝早い分にはいいのかよな?」

「うーん、朝取りの方がおいしいならいいんじゃないの?」

「時間制限って、そういう基準なのかよ!」

 みんなが部室に揃ったところで、水やり当番の話になる。

「じゃあ、これで決まりね。何よ、李華。六人になって回数減ったんだから、もう少しうれしそうにしたら?」

「でもさ部長、水道からプランターまで遠くなって、バケツとジョウロ持って行くのめんどくさいんですけど」

「それなんだけどパプリカは、葉っぱや花に水が当たらないよう根元にやってね」

「聞いてるのかよ! そのパプリカのせいで、一層大変だっていうのに」

「そんなこと言ってるけど、トマトの方が水の調整難しいんだよ? 吸う水の量が減ったり増えたりすることが実割れにつながるんだから」

 トマトを人質に取られ、李華は何も言えないようだ。

「ところで部長、落花生の守りは私に任せてください!」

 瑠奈がハイテンションなんだけど、何かあったのかな?

「寒冷紗してあるから平気だと思うけど、カラスとか賢いからめくったりしてくるかな?」

「はい! そんなこともあろうかと、準備をしてきました」

 瑠奈は謎のポーチを膝に載せると、そこから拳銃を取り出した。

「これは由緒正しき我が家に伝わる南蛮渡来の鉄砲で……」

「いやそれ、マラソンとかでスタートするときに使うやつだよね?」

「バレてしまいましたね。スターターピストルと申します」

「正式名称は何でもいいけど、どしたのそれ?」

「担任の田部井先生に、鳥で困っていると話したら貸してくれました」

「そっかー。田部井先生、あのこと気にしてたのかな……」

 プランターを菜園の横に置こうとしたら、ダメだと言った先生だ。部長も言ってるけど、やっぱりそれが理由なのかな?

「二-Fからなら菜園は見えますので、カラスがきたらこれで一撃です!」

「いや、瑠奈。授業中は撃つなよな。菜園部も一撃で終わっちゃうから」


 話が終わったところで、今日の水やりを二手に分かれてやることになる。菜園は真空先輩が瑠奈と李華と、そして雅ちゃんを連れて行くことになり、私は部長とプランターのある地蔵裏へ向った。

「部長、竹内さんいますよ」

 球場の方を見ると、バックネット越しに竹内先輩が試合を見ている。

「よっ! 美穂。あれ、試合やってるの白山北じゃん」

 近寄り部長が声をかける。

「うん。前の試合の後、監督同士で意気投合したらしいよ」

「それでまたやってるのか」

「あれからトラブルはない?」

「大丈夫だよ。どちらかと言うと仲良くなったかも。ねぇ? 小袖」

「そうですね。それにしてもネット裏にいると、バットで打球を打つ音が大きくてビックリです。これなら鉄砲がなくても、プランターは安全ですね」

「鉄砲?」

 竹内先輩が眉間にシワを寄せる。

「小袖が言ってるのは、さっき新入部員の島津がカラスから菜園を守るためにスターターピストルを使って追い払うって言ってたからなの」

「ふーん。でも小袖ちゃん、私も狙った標的は外さないわよ」

「へぇ?」

 自信ありげな表情の竹内先輩に、私は首をひねった。

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