第29話*大人の事情*
「冬の空は透き通ってて、夕焼けが目に染みるねー」
直してあった屋上へ出るためのドアの鍵をまた壊すと、私は自分の髪のように輝く空を見て独り言をいい、そしてつぶやく。
「このクソ寒いのに、よくやるよな」
グラウンドに目をやれば、陸上部が練習に励んでいたからだ。
そんなことよりソラが真空先輩として先にいたってことは、天使としても先輩ってことだよな。でもあいつ、何しに来たんだろ……って、たぶん私とおんなじだよな。それで何を聞いても、大人の事情って言ってたのか。
だけど魔法で家も借りられるし、家族や出身校だって全部架空で作り出した話なんだから、そんな隠し方しないで適当に言えばいいはずなんだけどなぁ……。
このところ時間があれば屋上にいる私は、正直小袖の事が気になっていた。
「今の時期は食べもん採れないし、小袖も部室にはたぶん行ってないよな……」
どっちにしても、ソラには会いたくない。
小袖の話だと転校するって話だったよな? それって向こうへ帰るってことだよな? じゃあなんで、まだあいついるんだよ。
そんなことを考えれば考えるほど頭にくる。
あいつは知ってて、知らん顔して結果を出せない私をバカにしていたに違いないんだ。優等生には、うまくいかなくて落ち込んで、合わせる顔がないと避けて戻れなくなってしまった、そんな人の気持ちなんて分からないんだ。
ただただ、屋上にいるしかなかった。
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