朝の章
第28話*信じるものは救われる*
李華、どうしてるのかな。スマホもつながらないし。ひょっとして、年末年始だから家族がいる海外にでも行ってるのかな。そしたらお土産、何くれるのかな。
菜園部の四人で初詣へ行くことを思いつきメールを送ってみたときのこと、部長と真空先輩からは“了解”の返事がもらえたものの、返信がない李華とは全く連絡が取れないのであった。
そのまま約束の日になってしまい、待ち合わせ場所である近所の小さな神社の鳥居前で部長と真空先輩を待っていた。
「あけましておめでとうございます、本年もよろしくおねがいします」
一緒に来た二人に丁寧に挨拶をする。
「あけおめー、小袖」
「こちらこそよろしくね。それじゃあ、行きましょか」
先輩たちも着物を持っていないのか、ご近所の神社だから着てこなかったのかは分からないけど、ゆるい服装でお正月感ゼロなのである。
「はい、行きましょう。ところで真空先輩いきなりなんですが、転校しなくてよくなったって本当ですか?」
「ええ、そうだけど。あなたも知ってたの?」
「はい、でもよかったです。李華にも教えてあげたいのに連絡が取れないんですよね」
部長を誘うメールに“噂で聞いたんですが真空先輩も誘って大丈夫ですか?”と、揺さぶりをかける内容も付け加えておいたのだけど、そのあと部長が電話をかけてきて“それをどこで知ったんだよ”と、しつこく聞かれて困ったんだよな。だから、真空先輩に聞けばまた同じように迫られるかなと思ったけど、もう一度確認したくて直接尋ねてしまった。真空先輩は驚いた素振りを少ししただけで、追及はしてこなかったから助かった。だって、転校を知った理由がたまたまだったとはいえ、盗み聞きが好きな変態さん扱いされてもいやだからね。
「だから今日、李華誘えなくって」
「そうなの? でも李華はきっと、神様なんて信じてないから連絡がついても来ないわよ」
真空先輩がそこまで言い切るなんて、なんでだろうと違和感を覚える。
「私は神様、信じてますよ。信じるものは救われるって言うじゃないですか」
「どうかしら?」
ムム、なぜ真空先輩は疑問系なんだ。
「それじゃあ真空先輩も、信じてないんですか?」
「そうね。そんなものいないわ」
ムムムムム!
「ぶ、部長は信じてますよね?」
「信じてるよ」
!! 部長、私も信じてました。
「と、言うかさ、そこにあるんじゃないかな。神様っていろんな物に宿ってるもんなんでしょ? 川とか土とか、そういう自然に。あと、道具とかにもかな。だから栽培ができて菜園部がある」
「さすがです! 部長!! 菜園部って神の力の結晶なんですね」
「あ、あ? うん。そう……かな?」
拝殿に着くとそれを知った私は早速、神様に収穫のお礼を言うのである。そしてお賽銭を入れると今年の豊作もお願いしておく。
「そうだ」
私は一度しまった財布を取り出すと、おみくじに使う予定だったお金を賽銭箱に入れてもうひとつお願いすることにした。
願い終わると拝殿の階段を下りて、先に参拝が済んでいた部長と真空先輩のところに行く。
「小袖、随分お願いしてたね。何、頼んだの?」
「えっと部長、お願いって言ったらダメなんじゃないんでしたっけ?」
「どうかな、でも小袖の頼みそうなことは大体分かるけどね」
「あなたもよ、紗綾。どうせ勉強しないで成績が上がりますように、とかなんでしょ?」
真空先輩の予想に、部長は動揺している。
「そ、そんなことよりさ、おみくじやろうよ」
部長はお約束なおみくじをと言うのだが、
「すいません、近所だったんでお金あんまり持ってきてなくて全部入れちゃいました」
「へぇ? 全部賽銭箱に入れちゃったの」
「はい……」
「貸してもいいけど、それでおみくじ引くのも変だよね」
「そうですよね」
「じゃあ今年は、なしでいいか。ね、真空?」
「そうね。あなた達ならおみくじで、どんな結果が出ても何も心配することはないのだから引かなくても大丈夫よ」
と、真空先輩が意味不明だ。
「そうだぞ、小袖。この部長様がいれば心配ないのだ」
そう言いながら、部長は抱きついてくる。
「わー、やめてくださいよ。部長、セクハラです」
「よいではないか~、グヘヘヘヘ」
境内で騒ぎ、白い目で見られながら鳥居を出ると、今日は帰ることにするのであった。やっぱり三人じゃ物足りない。
短い冬休みも終わり学校が始まる。
バス停までの道には僅かだが雪が残っていて、それを見て冬休み中にではなく今降ってくれないと休校にならないのにな、なんて思いながら登校する。
鉛色い空で放課後も寒いままだったし水やり当番でもなかったけど、暖房のない部室へ行ってみる。
「こんにちは」
こんな日でも、部長と真空先輩はやっぱりいた。
そして部長は、休みの前に部室へ避難させておいたプランターに水をやっている。
「やあ、小袖。李華は今日も一緒じゃないのか?」
「はい、部長。いっつも機嫌悪そうな顔でいて、廊下で声をかけてもさっさと行っちゃうんですよね。電話も出ないし」
「小袖ひょっとして、李華が来ないの自分が悪いと思ってる?」
部長の言う通りだ。私は小さくうなずくと、真空先輩の転校を知った理由を白状して話を続ける。
「李華にも転校するって教えたんですが、話がなくなったと伝えてないんです。他の人がいる廊下じゃ話せないので言う機会がなくって。だから、真空先輩が転校しないでいるのを見て、私が嘘を言ったと思って怒ってるんじゃないかなと」
李華は落ち込む私を見て、精一杯励ましたのだから裏切られたと思っているに違いない。
「それはないわ。だいたい転校をしなかったのは私の都合だし」
すぐさま真空先輩は否定するが、根拠がない話をするなんて真空先輩らしくない。
「そうだけどさ真空、李華は事情を知らないんだから勝手に怒ってるってことも考えられるんじゃない? もしよかったら私から李華に説明するから、実際のところなんで転校がなくなったのか教えてくんないかな」
「大人の事情としか言えないわ」
仲のいい部長から聞かれても、真空先輩が教えないところを見ると本当に言えないんだなと思う。
「部長、いいですよ。李華が来ない理由、他のことかもしれないですし」
そう言うと私は、一人先に帰らせてもらった。
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