夜の章
第26話*なんなんだよ*
私はその後、部室に行かないことはもちろん小袖を避けるようにしていた。
ただ階段を挟んでいるとはいえ、隣のクラスなのだから会ってしまうことはあった。
「最近、部活来ないね?」
「いいじゃねえか、もう活動ないんだし」
それでもこんな風に、適当に返事をして立ち去るようにしていた。
冬休み……休みじゃやることもないので、朝がきてもベットで包まっている。だけどずっと横になっているのも腰が痛い。
しょうがねぇなと宿題を広げてみるが、ひとりじゃ全く進まない。他の事をと見回せば、ソファーに放置してある借りたままの漫画があるだけで、行き場のない怒りが頭に上ってくる。
そしてこんな時に、写し世とつながるゲートを守り、ついでに私たち実地組を管理している施設から手紙が届く。
『お勤めご苦労様です。派遣先がお休みということで、一息つかれているところ申し訳ありませんが、ベート様が呼んでおられますので、神殿まで来ていただくようお願いいたします』
まったく、うるさい。あんなジジイのところへ行く気分ではないが、無視できる立場でもないので仕方がないと向かうことにする。
石段を上がると神殿に似せたゲートのある赤い建物が先に構えている。そして建物まで伸びる道では、何の意味があるか分からないオブジェが所々あり目に入るので、『まさかプラスチック製じゃないだろうな』などと、勘ぐりながら進んでいくのであった。
「よう、来たぜ」
こちらの世界に戻ってきてすぐ神殿だったものだからベートと会った途端、何も考えずに言ってしまう。
「リカ、何ですか! その口の利き方は。前から酷かったが、あなたはしょうがない使いだ」
ジジイが説教を垂れている。偉い人だということを忘れていた。
「それで、何か御用でしょうか? ベート様も、プレゼント運びの用意などで忙しい時期なのではないですか?」
「あれは私の管轄ではない」
ベートの対応は実につまらない。さて、そろそろ本題かと思われた時、もう一人の天使が少し癖のある銀色の髪をなびかせながらやってくる。
その眼、このクールな態度。真空先輩? ……だよな。
「戻ったか、ソラ」
ソラ?
ソラ……、真空だよな。
私は怒りに震える。
「そういうことか……、そういうことなのか……」
魔法、だから効かなかったのか。ふざけやがって……。
「あんた、知ってたのか? 魔法をかけようとしたことも。いや、それ以前に私のことも」
どこともしれない奥底から声が絞り出てくる。
そんな私の怒りの言葉に、いつもクールだった真空は抑えられなくなったのだろう。怒りを吐き出してくる。
「紗綾が苦しんだのは、あなたが安易に力を使ったからなんだ……。放っておけば時が距離をつくり、野球部と菜園部は関わることがなかった」
真空の声は少しずつ力が入っていき、段々大きくなっていく。
「栗山のことだけじゃない。高峰のことでも心を痛めてしまった。あの子はやさしい子、自分が行った結果で相手が不幸になってしまうことを良しとしないんだ」
真空が言うように、部長はいい先輩だ。でもそれで、私が言われる筋合いはない。
「ソラだか、なんだか知らないけど、神が私たちに力を授けているのだから使って何が悪いんだよ。奇跡を起こして信仰を集めろというのは、神の命令で与えられた使命じゃないか。うまくいかなかったからって文句言われても困るんだけど」
私は当然のことをしただけなのだから言い返したのだが、ベートが私に説教をしてくるのだ。しかも、言い争う二人にではなく私だけにだ。
「よいか、リカ? 力を使うべき相手、使うべき願いを精査すべきだ。なんでもかなえればよいというものではない。お前は願いをかなえる必要のない者に力を使っている」
「…………」
「次に、信仰をする者の中から誉ある願いを見つけなければならない。自分の利益や自分との関係を考えてはいけないのだ。そこが、精査されているとは言えない」
「…………」
「そして、神の偉大さと服従を知るべきだ。自分で何でもできるという、慢心や怠慢を呼び起こすような使い方をしてはならない」
「…………」
「さらに、運命を認めるべきだ。あくまでも手を差し伸べるだけであって、道を作ってやるのではない」
「…………」
「結果、違いを知るべきだ。力の主は、取引など求める相手ではないのだから代償を求めてはならない」
「…………」
私には分からなかった。釈然としないのだ。
無知だからなのかもしれないが、信じることをやった。何も悪いことなんてしていない。分からない。でも、やるべきことはやったはずだ。何も間違っていないはずだ。私はベートの言葉に何も感じなかった。いや、……怒りのみ、再び感じたのだ。
「だいたい、祈るばかりで何もしない連中なのにどうやって、誰を、何を、選べというんだよ。虫がついたら嫌だからって、追い払ってやっただろ! 勝ちたいって言うから、勝たせてやっただろ! 何より、神だって信仰と言う代償を求めているじゃないか!!」
私の声は、神殿中に響いただろう。そこは誰がいるのか、誰もいないのか、分からない場所であったが、目の前にある岩屋に隠れたという神にも聞こえただろうか?
ベートは叫ぶ私を相手にすることもなく、これ以上説明をしなかった。
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