第三章 烈火獣(3)
クレインが嘘をついていることくらい、レイシアにはすぐにわかった。
私室に戻ると、レイシアは妙に疲れた思いで、寝台の上に寝転がった。
クレインから信頼されていない、というわけではない。それもわかっていた。信頼しているとしても、言えないことがあるのだろう。レイシアはそう思って、追及したい気持ちを押さえ込んで部屋に戻ってきた。
本当は、クレインにはすべてを話して欲しかった。すべてを話してくれた上で命を預けろと言ってくれれば、どんなに勝算がなかろうと、命を投げ出す覚悟があった。
(でも、クレインはそんなこと望んでいないんだ)
命がけで戦う仲間として、認められていない。クレインの態度は、レイシアにそういう疑念を呼び起こさせた。
作戦が失敗した場合、レイシアはレーディック商会の商人に紛れて、オービルを抜け出す手筈になっていた。ヘクターやメリルも、時期をうかがってオービルを出る。バルアン将軍だけは姿を隠すわけにもいかず、兵を率いてガリアス山脈を下り、旧王国領内で兵を募って叛乱軍を組織し続けることになっていた。レイシアは、それに参加したいとは主張しなかった。
なぜなら――作戦が失敗するということは、「クレインがガウルに殺される」ことを意味するだからだ。
クレインが死んだあとの想定など、レイシアはなんの意味もなかった。クレインが死なないように戦う。それが自分の戦いだと思い定めていた。だから、作戦が失敗した時の段取りなどに従うつもりもなかった。
「ホント、わかってないなぁ……クレインは」
うまくいかなかったら、一緒に死んでくれ。そう言ってくれたほうが、よほど不安なく作戦の遂行に集中できた。人の感情に対する致命的な鈍さは、クレインの悪いところだった。
だが、そういうところも愛おしい。そう思ってしまう自分に、レイシアは苦笑するしかなかった。
「クレインがそういうつもりなら、あたしにだって考えがあるんだからね?」
今朝、メリルから受け取った物を思い出す。
最悪の事態に陥った場合、あれは絶大な効果を発揮するはずだった。だからこそ、例え家名を汚そうとも、レイシアはそれを使うことをためらわなかった。
(なにもかも、うまく行きますように……)
渦巻く不安から目を背けるように、レイシアは固く目を瞑った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます