寿命が解る世界で、僕は自分の寿命を知らない。
落果 聖(しの)
寿命が解る世界で、僕は自分の寿命を知らない。
友人の余命は残り一ヶ月。
そう言うわけで盛大な生前葬を行っていた。
友人は生まれてから二十四年と三ヶ月と一日で死ぬ。
平均寿命を考えれば短いのかも知れないが、青春だけを味わう人生が悪いとも思えなかった。
僕の隣にいる女性は約八十七才で死ぬが、それまでの人生プランを考えてしまうと、友人の三倍以上幸せな人生なのかは解らなかった。
そういう僕の寿命は不明だ。何度も精密検査を受けたけれども、どんな医者も解らないと答えた。
だから僕はいつも不安でたまらなかった。一体どんなタイミングで結婚するのがベストで、貯蓄したり散財すべきなのか。
この皆が幸せそうな会場の中で僕一人だけが深刻そうな顔をしながら酒を飲んでいた。
「どうした浮かない顔して」
友人が僕に話しかけてきた。顔はすでに真っ赤になっている。
「自分の寿命の事考えてたからさ」
「好きな時に死ねば良いだろ。結婚相談所なんかじゃ同じ日に死ぬ相手を探すらしいぜ。だから好きな女と同じ日に死ねば良い」
「そこまで僕の寿命は待ってくれるかな」
明日死ぬかも知れないし、百才を越えてしまうかもしれない。
何時死ぬか解らない以上の不幸がこの世に存在するのだろうか?
「なら寿命が短い女を捜せばいいさ。同じ日に死ぬ奴が集団で集まって皆で慰め合ったりもするらしいぜ。俺はごめんだけど」
友人の余命は残り一日。
その日もパーティで、死んだらすぐに葬式に移項する準備も万全だ。現在開催中の友人の死因賭博は不摂生による心臓麻痺がトップだが、僕は急性アルコール中毒だと睨んでいる。賭けに勝つと遺産の一部が少し貰える。もっともこれだけ派手に遊んだ友人に遺産があればの話だが。
友人の死因は階段からの転倒だった。酒の飲み過ぎが原因らしい。
悲しむ物はいなかった。賭けに勝って喜ぶ者はいた。
僕が死んだらこんなにも楽しい物に出来るのだろうか?
階段で脳漿をぶちまけている友人も楽しそうな顔をしている。
そんな友人が僕は羨ましくてしょうがなかった。
そして今日僕の余命まで後三分。
余命が誰にも解らないので僕が勝手に余命を決める事にした。
目の前には首つり用のロープをぶら下げている。
長生きは人生設計が難しいので僕は友人みたいな生き方を選ぶ事にした。
やりたい事は大体やった。
後は死ぬだけだ。
死んだ後は皆で僕の遺産を使ったパーティを開く事になっている。
椅子に登り、ロープに首をかけ、椅子を蹴飛ばした。
ロープが首を絞める。
そして僕は死ねなかった。
十分たっても一時間たっても死ねなかった。
死ぬと決めたからには意地でも死ぬ。
でも刺そうが燃やそうが僕は死ねなかった。
寿命が解らないのでは無くて、僕は不死だった。
寿命が解る世界で、僕は自分の寿命を知らない。 落果 聖(しの) @shinonono
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます