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「そうかぁ……やっぱり同じ目に遭ってたんだな。昨日話聞いた時に、ちょっと思ったんだよ」
「でも紫原先輩のは暴力じゃないですか。かなり酷いですよ」
「いや、精神的なのも辛いだろ」
苦笑する聖吾。優もそうだが、優しくて誰かを追い詰めて傷付けるでもない人間が、どうして排撃されねばならないのだろう。あまりに理不尽ではないか。憤りが望実の胸中に渦巻く。
「皆似てますね。あ、じゃあ私達は仲良くなれますよね……?」
おずおずと漏れた優の言葉に、揃って顔を見合わせ、一気に笑い出す。
「いじめられ組?」
「おー、いいじゃん!」
「ダイレクト過ぎると思います……」
臆病だけれど、その名の通り優しい優。礼儀正しく、気遣いも出来る聖吾。そして少し大人びたところのある、しっかり者の望実。
すぐに仲良くなった3人は、それからの毎日、連絡を取り合ったり、一緒に
望実は変わらずソレイユへと顔を出して彼女に近況を話し、彼女も友達が増えた事をとても喜んでくれた。
望実の日常は大きく変わってきていた。そしてそれは2人も同じだったらしい。優は以前よりも登校が増え、聖吾は一緒に帰るようになってから暴力が減ったらしい。望実達がいる事で、助けを呼ばれると思って手出し出来ないようだった。
そして今日もいつも通り、放課後になると、望実達は保健室を出て3年のクラス付近で聖吾を待っていた。
「紫原先輩まだかな?」
「うん。先生の話が長いのかな……ねぇ中園さん、ちょっと待っててくれる? 私、トイレに行ってくる」
「うん、分かった。ここにいるね」
優の返事を聞き、望実はトイレへと向かう。各教室やグラウンドで部活動をする生徒達の声を聞きながら歩いていると、廊下で愛那と奈津美に出会う。最近は気にしないようにしていたが、やはり体が強張る。
きゃあきゃあと声高にお喋りしていたのをやめ、こちらを見ながらコソコソと何かを話し出す2人。動揺を見せないように、黙って過ぎ去ろうとすると、
「ねぇ、待ってよ村瀬さん!」
呼び止められ、嫌々ながら顔を向けると、2人が走り寄ってくる。
「あのさー、村瀬さんに言っておきたい事があったんだ」
「……何?」
「村瀬さん、最近隣のクラスの中園さんと仲良いよね? でもそれ、やめた方がいいと思うよ」
「アイツさぁ、学校の裏サイトにアンタの悪口ガンガン書き込みしてるよ」
奈津美の言葉に、直ぐ様『嘘だ』と思うが、その顔はニヤニヤと嗤ったまま。
「アイツが何で学校来なかったか知らないの? 人の悪口ばっかり書くから、ハブられたんだよ。ケータイずっと触ったりしてんのってクセなんだよ。何か気に入らなかったら、すぐ書き込みしてんの」
胸中に黒い絵の具を垂らすように、暗く重苦しい不安が広がる。動悸に襲われる。優はそんな事しない。だが、よく携帯電話を確認しているのは事実だ。今はもう見る事すら無いが、書き込みがあったら?
散々顔の見えない空間で誹謗中傷を受けた過去が、疑念を呼び起こす。
「めっちゃ悪口言われてんのに仲良くしてるから、ウケてたんだけどねー!」
けらけらと嗤う奈津美と、声には出さないが内心嘲笑しているであろう表情の愛那に、耐え切れず走り出す。
トイレに逃げ込んだ望実は震える手でポケットに入れていた携帯電話を取り出し、学校の裏サイトを探し出してアクセスする。嘘であってほしい。嘘だ、と騒ぐ心のまま掲示板を確かめると、そこには決して見たくはなかった言葉達が並んでいた。
『村瀬ウザイ!』
『図書室くんな、本が汚れる』
『保健室でサボってばっか』
『早く死んで下さい』
相変わらずの内容だったが、中でも目を引いたのが、
『プリクラ初めてとかウケる。コイツとは友達になりたくないよね。私も早く死んでほしい』
その一文は、奈津美達の言葉が真実だったと確信させるには十分過ぎた。
(初めてだって事、中園さんにしか言ってない……)
溢れ出した涙が悪意に
『本当は友達になりたくなかったんだね。私も陰でコソコソ言う中園さんの事大嫌い。さよなら』
そう送ったメールが最後だった。
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