第七章 集う3人と、壊す獣
『明日は行こうかな』
そんなメールを送ってきていた優と保健室で過ごした翌日の放課後。帰りに寄り道しないかと誘われた望実は驚きを隠せずに聞き返す。
「寄り道? ってどこに?」
「うーんと……その、プリクラ、撮りに行かない?」
「プリクラ……私、撮った事無いよ」
「そうなの? 実は私も無いんだ」
照れ臭そうに笑う優。しかし筐体の置いてある店は人が多くないだろうか。大丈夫なのかと訊いてみると、
「頑張る。昨日の話、村瀬さんから聞いて、少しでも元気出してほしいなって」
そう言われて思い返す。昨日の晩、メールしている最中、放課後の出来事を話したのだ。優しい先輩が拾ってくれたが、クラスの男子にペンケースを投げられた事。
もしかして今日来ると言ったのも、優なりに励まそうとしてくれたのだろうか。その気持ちがありがたく思え、望実はにこりと微笑む。
「ありがとう。じゃあ行こう」
一緒にゲームセンターへ赴き、筐体を見付けて写真を撮る。そんな何でもない事だが、お互い初めての体験で、落書きをしては笑い、出来上がりを見てははしゃぎ、とても楽しかった。2人で分け合ったそれを眺めて歩きながら、また笑みが込み上げる。
「凄い楽しかったね!」
「うん! あははっ、私のこれ、目閉じちゃってる!」
「あ、本当だ、また行こうよ!」
と、そこまで言って、望実はふと妙な音が聞こえた気がして足を止める。
「村瀬さん? どうかしたの?」
「……今、変な音が聞こえなかった?」
「え? うーん、分からなかったけど……」
2人が訝しく思っていると、今度は大きくガシャンと何かが当たる音を聞く。近くには野球場がある。ボールがフェンスにでも当たったのだろう。しかしながら今日は人の姿は無い。
「……何だろうね?」
「行ってみる……?]
怖々と野球場に入っていった2人は、奥まった場所で複数の男子生徒を見付ける。それだけなら良かったが、1人の男子生徒を狙い、その体へとボールを打ち込んでいるというあまりに酷い状況。驚く事に、的にされ苦しげに
「あの人! あの人が昨日ペンケース拾ってくれた人だよ! ねぇ、どうしよう!」
「落ち着いて村瀬さん、誰か……誰か呼んでこよう!」
女で、更には後輩である自分達には手に負えないと判断した2人は野球場を飛び出すと、道を歩いていた年配の男性に、しどろもどろで訳を話して付いてきてもらう。
「おい、お前ら! 何て事してる!」
状況を見た男性はすぐに怒声を上げて生徒達のもとへ飛び込むが、バットを振っていた者達は口々に『ヤベェ』と言って蜘蛛の子を散らすように逃げ去っていく。
「先輩! 大丈夫ですか!」
望実が駆け寄ると、痛みに顰めた顔が上がる。
「あ……昨日の筆箱の……もしかして、あの人呼んでくれた?」
「はい。たまたま先輩を見付けて、自分達じゃどうしようもなくて……」
「キミ、大丈夫かっ?」
逃げた生徒を捕まえ切れずに戻ってきた男性が同じように駆け寄ってきて声を掛ける。
「すみません、大丈夫です。助けてくれてありがとうございました」
大分痛いだろうに、立ち上がった彼は微かに笑って低頭する。
「いやいや、いいんだよ。それより本当に大丈夫か? 家まで帰れるか?」
「はい、大丈夫です」
「ならいいが……酷い事するもんだなぁ。キミ達も気を付けて帰るんだよ」
優しく告げて立ち去る男性に望実も優も『ありがとうございました』と声を揃える。
一気に緊張が解けてへたり込みそうになる2人だったが、先に地面に座り込んだのは先輩の方だった。
「先輩、やっぱり痛いんじゃ……」
「ちょっとなー」
力無く笑う彼が、確認するようにちらりと制服を
すると不安そうに見ていた優がどこかへ駆け出し、すぐに戻ってくる。
「あの、これ、どうぞ……冷やした方がいいと思います……」
水道で濡らしてきたのだろう、小さな声でタオルを差し出す。人が苦手で臆病な優だが、彼は悪い人ではないと感じたようだ。
「何か男なのに助けられてばっかりだな」
そう言って笑った彼が体を冷やして休んでいる間、望実達も座って話をする。
彼は3年の紫原聖吾。それぞれ自己紹介をして先程の事などを話し出すと、共通していじめの対象である事が分かり、不思議とすぐに打ち解ける。
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