第六章 無神論者のささめき

 早速優に携帯電話を買いに行く事を伝えたかったが、相変わらず登校してくる事は無く、結局母と買い物に出掛ける方が早く来た。

 久々の一緒の外出は楽しく、それは母も同様だったようで、始終嬉しそうにしていた。

 様々な店をぶらぶらと回り、入った雑貨屋では可愛らしいステーショナリーセットを見付けた。望実自身が口にするより早く『可愛い!』と言った母がおかしく、それを買ってもらう事に。


 翌日からの登校が僅かに嬉しくなり、真新しいそれを使ってする自習も、どこか楽しかった。そうして過ごしていると、暫くぶりに優が保健室へ登校してくる。

 早速手招き、こっそり耳打ちする。


 「携帯、買ってもらったよ」

 「えっ? 本当に?」

 「うん」

 すると嬉しそうに笑った優は自分の鞄からメモ帳を取り出し、何かを書いた後それを目前の机上に、つ、と滑らせてくる。

 読んでみると、電話番号とメールアドレス。そして『メール出来るね! 凄く嬉しい! やったー!』と猫のイラスト付きで書かれていた。

 望実も思わず嬉しくなり、買ってもらったばかりのメモ帳を使い、返事を書く。続く秘密の応酬。


 『まだ番号とアドレス覚えてないから、今は書けないけど、後でメールするね! 楽しみだね!』

 『うん、楽しみ! 私が学校に来れない時もメールしてくれたら嬉しいな。あと、村瀬さんのメモ帳カワイイね!』

 『迷惑じゃなかったら送るね! ありがとう、このメモ帳は携帯買いに行った時にお母さんが買ってくれたんだよ!』


 お互い、喜びをあらわにして手書きのキャラクターなどを添えた小さな手紙を交換する。こういった事も望実は初めてだった。クラスの女子達が楽しげにしているのを羨望したものだ。それが今、こうして叶って嬉しかった。


 残念ながら今日は後々保健室で休む生徒が増えてきた事で、優はすぐに早退してしまったが、帰宅したらメールしてみようと、望実は1日を過ごした。

 待ち侘びていた放課後になると、すぐに校門をくぐったが、思い直してソレイユへと向かって歩き出す。彼女にも携帯電話を買った事や本の内容など、話したい事がたくさんあった。


 いつもの店の前に着くと、扉が半開きになっており、訝しく思った望実は、そっと中を覗く。

 接客中だったのか、中には彼女の姿と共に1人の男性の姿があった。

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