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「ねぇ、お母さん」
帰宅すると母は夕飯を作っており、話を切り出すのを迷っていた望実は、食卓に着いた頃、ようやく声を掛ける。
「あのさ、また携帯持ちたいんだけど……駄目?」
怒られるかもしれない、と思いながら話した為に、声音が自ずと弱弱しくなる。しかしながら、口に運んでいた箸を止めた母は何故だか嬉しそうに笑う。
「いいよ! 次の休みに買いに行こう!」
「えっ? いいの?」
あまりにあっけらかんと言われ、拍子抜けする。
「望実はさ、私が大変だとか、お金の事気にして色々我慢するでしょ? いいんだよ、そんなの気にしないで」
「だって……お母さんだって自分の物買ってないじゃん」
「私はいいの! それに、たまに洋服とか買ってるよ」
そうは言うものの、捨てられていた値札を偶然見た事があった望実は、それが安値の物だという事を知っていた。
「そりゃあ、あんまりにも高い物とかは無理だけど、あんたは我慢し過ぎ。欲しい物があったら言いなさいよ。前に、お金掛かるからって携帯持つのやめたでしょ? その時お母さん、子供にこんな事言わせて駄目だなーって思ったのよね」
苦笑いの母の言葉に、心が激しく動揺する。あの時の申し訳無さそうで悲しげな『ごめんね』
あの言い訳が母をこんな思いにさせているなんて知らなかった。違うのだ、母がそんな自責を抱く事は無いのだ、と望実は口にしたい思いに駆られ、それでも唇をそっと結ぶ。その代わりに暫くしてぎこちなく笑う。
「じゃあ、さ……買いに出掛けた時、他にも何か欲しい物が見付かったら言っていい?」
「いいよー! そうしなさい!」
にっこりと笑って食事を再開する母に、望実はほんの少しほっとして同じように箸を進めた。
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