町の図書館は規模は小さいものの、定期的に新刊やリクエスト物を取り入れており、蔵書を漁りに訪れる人もそこそこいた。

 優に指し示された書棚は中でも冊数が多い。しかしながら、そこに並ぶタイトルに望実は怪訝な顔をする。

 「ねぇ、これ怖い本とかだよ?」

 「うん、ここにあったので見たの。幽霊とかの怖い本じゃなくて、オカルト、っていうのを集めた本」

 目的の話が掲載された本を探していた優が『これ』と引き抜いた1冊を渡してくる。

 「体に傷って言ってたよね? そういうの聖痕って言うみたいだけど……違うのかな?」

 「せいこん……? 初めて聞いた。ありがとう、読んでみるよ」

 長居すると下校時刻の児童や生徒が増えるだろうと、貸し出しの手続きをして足早に図書館を後にする。


 「ありがとう、教えてくれて」

 改めて謝意を告げると、気恥ずかしそうに栗色の頭が左右に揺れる。お互いの家へと途中まで一緒に帰りながら、たどたどしいお喋りを続ける。

 「あの、村瀬さんは携帯持ってないの?」

 「前は持ってたけど、今は持ってないよ」

 「え? どうして?」

 「……ネットで悪口書かれたの。うちの学校の掲示板、みたいなのがあって、たくさん書かれた。そういうの、もう見たくなくて、持ってるのも嫌になったし、怖かったから。どうせメール出来る友達とかもいないから持つのやめたよ」

 望実の話に、癖なのだろうか、今日も携帯電話を度々手にしていた優が視線を伏せる。

 「そう、なんだ……」

 「うん。何でそんな事訊いたの?」

 「え……あの、村瀬さんとメール出来たらいいなって思って……」

 「そっか……私も誰かとそういう事するの、本当は憧れてたんだ」

 優の言葉が嬉しさをくすぐり、もう1度携帯電話を持ってみたい気持ちにさせる。帰ったら母に話してみようか、なんて思いながら、望実はお互いの家へ続く別れ道で笑って手を振った。

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