第8話


「あ」


痛い、と思った。

初めて経験したそれは、想像していたものよりも地味なものだった。

初めての瞬間なんて一瞬で、貫通してしまったらあとは普通だな、という感想だった。

前戯もほとんどなしに、私のそれは濡れていたし、彼のそれも大丈夫だった。

彼が財布からコンドームを取り出すのを見ていると、男子はみんな持ってるよ、と真っ赤な顔で言い訳された。

いざ、となるとやっぱり少し怖くて、仲元が心配そうな顔をしていたけれど、私は大丈夫だからと言ってそのまま行為を始めた。

最初はお互い場所が分からなくて戸惑ったけど、いざ入るとなるとそこからは割とスムーズだった。

ゆっくり、入れて、破って、動いて。

ぎこちなく、ゆっくり、行為は続いていく。

声、はうまく出せなくてずっと黙っていたけど、吐息だけは絶えず繰り返された。

二人分の吐息が、エアコンのきいた部屋に響き渡る。私たちの身体は汗ばんでいた。

「あっ、」

不意に、声が漏れた。

仲元の動きが一瞬止まったような気がした。と思ったらすぐにまた動き始めて、切なそうな顔をした。

ああ、この人もこんな顔するんだな。

腕で彼の顔を寄せて、キスをした。

仲元はさらに切なそうな顔になる。

「なんで、そんな顔するの」

そう尋ねると、仲元は黙って首を振った。

スピードも、どんどん上がっていく。

「ん、くっ、」

彼は果てた。ゴム越しの私の中で。

私はいかなかった。

そのまま仲元は私を抱き締めるようにして私の上に倒れ込んだ。

私たちは繋がったまま、しばらく抱き締め合っていた。


付き合うという約束をして彼が帰ったあと、私は部屋で一人泣いた。

私たちは明日から恋人同士ということになる。

仲元の気持ちは確かめられないまま、そういう形で話がまとまった。

きえちゃんと同じことをしたのに、きえちゃんのような満足感は得られなかった。

きえちゃんに近づけるような気がしたのに。


明日、二人にも報告しなきゃいけない。

汗で濡れたシャツを洗濯機に入れ、シワになったスカートにアイロンをかけてからベッドに入った。

仲元の、臭いがする気がした。



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