第7話


「あのさ、何で……?」


私の部屋で、隣に座った彼が呟いた。

学習机に置かれた麦茶のコップには水滴がびっしりとついていて、窓から入る夕日を反射して光らせていた。

「なんで、坂谷さんはさ…、あんなこと言ったわけ?」

話したこともないのに、と仲元が言った気がした。

「…仲元くんは、興味ないの?」

お互いの顔を見ることもなく、私は言う。

「男子って、そんなもんじゃないの?」

私にとっての男子は、エロくて、バカで、子供っぽい。3人で話してた通りの印象しかなかった。

「…そりゃ、あるけど……」

ちらっと彼の方を見ると、耳まで赤く染まっていた。

男子はバカだから、誘えば簡単に落とせると思っていた。男子なんてそんなもんだと思ってた。

でも、仲元は違った。他の男子よりシャイで、慎重だった。

でも私は、きえちゃんの経験したことを試してみたかった。それへの興味があった。


きえちゃんと、同じになりたかった。


少しだけ、隣に座っている仲元との距離をつめる。

仲元の熱が、伝わってくるような気がする。

窓の外からは、蝉の鳴く声が聞こえた。

「私は、してみたい」

そう言って肩がぴったり付くくらいの距離まで詰めてから、彼のほうを向いた。

顔を上げると、すぐそこには仲元の顔があった。目が、ぴたりと合った。

睫毛、長いなぁ、なんてことを思いながら、声を震わせた。

「だめ、かなぁ?」

ごめん、という声が聞こえた。

その瞬間、私は生まれて初めてのキスをした。

歯が当たるカチンという音がした。

いきなりのことに反応しきれずに開いたままだった目を閉じると、唇が柔らかい何かに触れられてる感触がより強く意識された。

息継ぎができず、苦しくなってきて口を離すと、またすぐに口を塞がれた。

身体の中が、あつい。

行き場のない手が、汗で濡れている。

そのまま、私たちは床に倒れた。

隣にはベッドがあったけど、床だった。

エアコンで冷えた床が、火照った私の身体を冷やしていく。

「ごめん」

彼はまた言った。

でも私たちは、また深くキスをした。





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