第5話


「卒業、しました、無事に」


夏休みが終わって二日目、きえちゃんが平和な昼休みに爆弾を落とした。

いぇい、と顔を赤らめながら、彼女は小さくピースサインをした。

「「えっ!?!?!?」」

「いや、だから、」

処女を。と真顔で小さく付け加えた。

それは私たち二人にとってはとてつもなく大きな爆弾で、威力はあまりにも大きすぎた。

「「はぁぁぁぁぁぁ!?!?」」

私たちの声に、教室にいた他のクラスメイトの視線がこちらに集まった。視界の端に、その中に和樹が混じっているのが見えた。

でも今はそれどころではない。

「ついこないだ付き合ったのに!?」

「前の先輩と別れた原因何でしたっけ!?」

「夏休みか!夏の魔法ってやつか!!」

「このリア充が~!!!」

そんな私たちに、きえちゃんは得意気に、でも穏やかに笑って見せた。

私は大丈夫だから、とでも言うように。

「何か、今の彼氏ならいいやーって、思っちゃったんだよね」

少しうつむきながら、彼女は言った。

その顔は、いつもの彼女より落ち着いていて、困ったように寄せられた眉間からも幸せが漂ってくるように見えた。

急に、きえちゃんが遠くに行ってしまったみたいに思えた。

私たちを置いて遠くへ行くみたいに。


きえちゃんは、本当に好きな人と結ばれたらしい。だから後悔もなかったんだろうな、と少し思う。

私は、どうなんだろう。

和樹と、結ばれたいだとか、そういう行為をしてみたいだとか、今まで思ったことがあっただろうか。

付き合ってデートをして手を繋いでキスをして、、、それよりも先なんて考えたことがなかった。

急に自分が子供っぽく思えてきた。

莉子は、私と同じような反応をしてたけど、好きな人はいないって言ってた。

莉子はそうだとしても、和樹は?

和樹は、莉子とそういうことをしたいと、思っているのだろうか。


(だとしたら、やだなぁ…)


9月と言っても、蝉はまだうるさい。

既にチャイムが鳴って授業が始まった教室の中で、私は一人、そんなことばかりを考えていた。





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