第4話


「あ、雨だ」


視線を窓に向け、彼女は言った。

「あー、ほんとだー」

「傘持ってきてないんだけどー」

それにつられるように自分も視線を窓にずらすと、先程より幾らか黒ずんだ雲がパラパラと雨を降らしていた。

「あーあ、さいあくー」

そう言って机に顔を突っ伏した幼馴染みに向かって、彼女は言った。

「でもさ、雨って、綺麗じゃない?」

止んだら虹が出るとことか、水溜まりに道が反射して映って見えるとことかさ。

彼女はそう続けた。

「でもそれは雨が綺麗なんじゃなくて、雨が止んだ後の話じゃない?」

「降ってる時はテンション下がるし濡れるし髪ボサボサになるし、いいことないよね~」

自分の幼馴染みを含む彼女の隣の女子二人は、どうしても雨が嫌いらしい。

そうだけどさ、と彼女は続ける。


「雨が一番、寂しくなくない?」


一瞬、の間が空くこともなく、取り巻き二人は爆笑とともにそれを否定した。

「莉子ってば何言ってんの?w」

「ポエムっぽいね何かw」

「天気に寂しいとか感じなくない?w」

彼女は、困ったように笑っていた。

いつもだと顔を赤くして対抗する彼女が、この日は一人静かに笑っていた。

好きだな、と思った。

雨を好きだと言って、雨は寂しいと言って、静かに微笑む彼女のことを。


「あ、また仲本が莉子のこと見てるよ」

「ほんとだー、彼も飽きないねぇ」

「だからそんなんじゃないって」

そんな声が聞こえて、ふと我に返る。

自分の机の上には、前の授業で使ったプリントがそのままの状態で放置されていた。

時計を見るとチャイムが鳴るまで1分しかなかったので、急いでそれらを机の中に突っ込んだ。

そしてそのまま、机に突っ伏す。


俺は、彼女と…。


突っ伏すやいなや、四時間目の開始を告げるチャイムが鳴った。

ヒールの音を鳴らして化学の先生が教室に入ってくる。皆が急いで椅子に座る音がする。

俺は、半ば機械的に号令に従って立ち上がって礼をした。

耳が、なぜだかとても熱かった。





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