第3話


「仲元は、莉子のこと好きなんだよ」


和樹は無自覚なだけで、莉子のことが好きなんだよ。自分が気づいてないだけだよ。

学校からの帰り道、「たまたま」帰りが一緒になった和樹と、私、今井ともかはそんなことを話していた。


和樹とは、小学校が一緒だった。

中学に上がるとき、彼は私立の中学に入学したため、同じ公立の高校に入って同じクラスになるなんて思ってもみなかった。

クラス表で自分の名前の近くに和樹の名前を見つけたときは、びっくりして叫びそうになった。教室に入ると、数年前と変わらない雰囲気の和樹がそこにいた。


2人の家は近所であったが、こうして一緒に帰ることは小学校以来1度もなかった。

部活などで帰宅時間がずれていたからだ。

でも今日は、和樹と2人で帰っている。

「なんでお前がそんなこと分かるんだよ、あとなんで俺のこと名字で呼ぶの」

和樹が不機嫌そうに返す。

「高校まできて下の名前で呼ぶとかさ、カップルじゃないんだから」

カップルじゃないんだから。

「あと、めっちゃ莉子のこと見てるの知ってるし。ストーカーかよって。」

「……」

「ほら、黙った。認めてんじゃん」

見つめていた和樹の顔が、赤くなっていく。

昔と変わらない、和樹の癖。

「莉子、ちっちゃくて可愛いもんね」

気づかないふりをしたまま、私は続けた。

そこからしばらくは、沈黙が続いた。

夏の夕焼けは、ジリジリと肌を焦がすように暑く、目に染みる。

ばれないように目をやると、和樹は情けない顔をしていた。

「…ばれてる、かな?」

「うん、そりゃもう、ばれっばれ」

「……まじかぁ」

和樹が、大きくなって骨ばった手で顔を覆いながら、私を見た。

やばい、目、そらさなきゃ。

急いで夕焼けに目を向ける。眩しい赤が目に刺さって痛い。

「坂谷さん、俺のことどう思ってるかな」

「……話したこと、ないんでしょ」

手が震えてしまうのは、きっと夏のせい。

「今度、紹介してあげるよ」

和樹が動くのが分かった。両手で耳を触る。これも、昔と変わらない和樹の癖。

これをするときは決まって嬉しいときだ。

「……ありがとう」

「どういたしまして」

私、なにやってんだろな。


今井ともか、高校1年生。

好きな人には好きな人がいます。




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