第2話
「仲元ってば、まーた莉子のこと見てるよ」
ともかが言った。
「やっぱ莉子のこと好きなんじゃない?」
窓際の私の席に集まって、休み時間を喋り倒すという日課は今日も行われていた。
私たち3人にとって、休み時間の10分間をこうして過ごさないことは、シロップのないかき氷くらい無色で無価値だ。
とりとめのない脈絡もないおまけにオチまでない。そんな話ばかりでも、1人でいるよりましだった。
2人はともかく、私はそうだった。
「やめてよ、そんな仲元なんか」
「莉子が好きじゃなくても向こうは好きかもよ?莉子ちっちゃくてかわいーし」
きえちゃんが薄いピンクに塗った爪を見ながら言う。窓から入る風で、茶色っぽくなったきえちゃんの長い髪が揺れる。
「いいじゃん、仲元。顔も悪くないし」
こけしみたいな黒髪ボブのショートカットをいじりながら、ともかも言う。
「仲元悪いやつじゃないしさ」
「そうだとしてもさぁ…」
「なにさ」
「私たち、話したことないんだよね…」
「え!?そうなの?」
2人が声をそろえて驚いた。
ちょうど2人同時に動いたから、私の席が音をたてて揺れた。
「うん、話したこと、ない」
そう、私と仲元は、話したことがない。
仲元和樹。同じクラスの男子。
身長はふつうより低め。
勉強、ちょっとできる。
運動、ふつう。
照れ屋で、無口で、シャイボーイで、女の子と話すことが苦手。らしい。
高校に入ってもうすぐ3ヶ月。
7月にもなるともう風も生ぬるくて、クーラーの設備がないこの学校を呪いたくなる。
隣のクラスでは、クラス内でカップルができたらしい。別れたら気まずそうだよね、と私たちは別れる前提で話したことがあった。
きえちゃんは、例の先輩と別れて別の先輩と付き合い始めた。先輩と別れた後で、その二人を見てた別の先輩がきえちゃんに告白したらしい。やっぱり美人は違う。
ともかはともかで好きな人がいるらしい。それが誰だかは私にもきえちゃんにも教えてくれない。
7月にもなるともうみんな恋をしだして、迫り来る夏に浮き足がたつ。
そんな中で、私、坂谷莉子は、音のない空っぽの世界に、ただ一人取り残されているような心地でいた。
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