君と僕と思春期。

わーるどおぶぺいん。

第1話


「男子ってさ、なんであんなエロいんだろうね」


お昼休みの教室で、きえちゃんは静かにそう呟いた。

「え、なになに、なんかあったの?」

ともかはお弁当をつつく箸を止めずに、きえちゃんに尋ね返した。

「彼氏?あの例の先輩の。」

うん、ときえちゃんが頷く。


迫られたんだ、昨日。

そうきえちゃんが低く答えると、私たちは「まじで!?」「うっそぉ!」とわざとらしいくらい大げさな反応を返した。

「あの先輩やさしそうだったのにねー」

「所詮あの人もただの"男"だったんだね」

「そういう人ほんと最低だよね」

「ただヤりたいだけじゃん?」

きえちゃんを置き去りにして、私たち二人の会話は続いていく。

「でもさ、正直高校生なんてそんなもんじゃない?俺ら思春期なんで、みたいな」

「思春期って中学で終わるんじゃないの?」

「え、そーだっけ」

「そーだよ、たぶん。よく分かんないけど」

「そっかぁ、なんかウケる」

「俺ら思春期なんでー、ってやつ?」

「そうそう」


気が付くと、きえちゃんは泣いていた。

綺麗な目が赤く潤んでいる。

「先輩のこと、好きだったのに」

拒んじゃった、私、最低だ。

そう繰り返しながら、しゃくり上げ始めた。

私たちの笑い声が止まった。

私たちにとっては笑い話に変えられるくらいどうでもいい話だったけれど、きえちゃんにとっては大事な悩みだった。


そのとき私は、きえちゃんのことを綺麗だと思った。

好きな人のために涙を流しているきえちゃんは、とても弱そうで、息を吹きかけたら揺れて消えちゃいそうなくらい頼りなさげだった。

いつもは強気でメイクも派手なきえちゃんが、か弱い女の子になった。

世界で一番美しくて繊細なものに見えた。


私たちの箸は、いつの間にか止まっていた。

午後の授業の開始の予鈴が鳴った。


暑い夏のことだった。







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