第11話 逃走した先に
寒気を感じてライオットは目を覚ました。
首筋がぴりぴりする感覚に顔をしかめながら体を起こす。
「この状況で呑気に寝られるなんて、緊張感のない人ね」
ライオットの正面に座っていた女性が冷たく呟く。
「す、すいません……」
膝にかかっていた毛布を綺麗にたたみながらライオットはおずおずと頭を下げた。
「おい、ダリア。ライをいじめてやるな、無理もないだろ」
「……申し訳ありません」
ダリアと呼ばれた女性はフンと鼻を鳴らし、そっぽを向きながら謝った。
「ったく……悪いなライ、別に悪いやつじゃないんだ。ただちょっと人見知りでな」
「隊長」
「へいへい」
隊長、ガリレオ・J・アルバトロスはダリアの咎める声を笛を吹くように聞き流した。
現在ライオットたちは『水の都ウンディーネ』を目指し、馬車に揺られていた。
「あの……」
「うん?」
「僕はどのくらい眠ってましたか?」
「三時間ぐらいだな」
馬車の速度から考えても、三時間と言うことはそろそろ目的地にたどり着くころだろう。
隊長に礼を言って座りなおすライオットに、無言でコーヒーが差し出された。
「ありがとうございます」
彼は微笑んで自らもコーヒーを飲む。
「サイの淹れたコーヒーは最高だぞ、冷めないうちに飲めよ」
ライオットは慌てて口をつける。
「美味しい……」
思わず声が出るほど美味しかった。
ふと顔を上げれば先ほどまで怖い顔をしていたダリアもその味に表情が和らいでいるようだった。
「……なによ」
「へ?」
思わず見とれていたライオットにダリアは怪訝な顔をする。
「い、いえ……綺麗な人だなって、つい。じゃなくて、えっと」
何を言っているのだろうと、ライオットは混乱した。
別の言葉を必死に探すライオットは、目の前で赤面し顔をうつむけるダリアに気がつかなかった。
「天然ってやつか」
隊長が笑い、サイが二人を見守る。
そこにはつい数時間前にあった地獄の光景を感じさせるものは何一つ存在しない。
「みなさーん、僕を抜きにして盛り上がるのもそこまでで。見えましたよ」
ずっと手綱を握っていた男―――カロライト・クラリネッタが声を上げた。
「……すごい」
初めて見た水の都の姿に、ライオットは感嘆した。
貿易の街として栄え、海に面するその都はまさしく通り名を体現するかのごとく。
水を纏っていた。
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