ウンディーネ防衛戦

第10話 寂しい城

 大聖都ルシファー。数日前までは荘厳なその雰囲気が、イデア・リングの平和を象徴していたかのようなその街は、たった一晩で見るも無残な姿に変わった。

 全てが壊れ、見晴らしのよくなったその景色の中唯一原型を留めた建物、街の中心にあった城。その屋上から街を眺める影が一つ。

 「メフィスト様」

 その影の背後に近づく羽の生えた女。

 「リリスか」

 振り向きもせず影が応じる。

 「一つお聞きしてもよろしいでしょうか」

 「なんだ」

 リリスと呼ばれた女は膝を付き、少し緊張した顔で問う。

 「メフィスト様の前に現れたものはほぼ必ずと言っていいほどご自身の手によって葬っておられますが、いささか固執しすぎなように感じるときもしばしばあります。なぜそこまで、自分の前に現れた敵というものにこだわられるのかと」

 「当然ではないか?私がそいつを殺せば他の誰かが死ぬことはないんだ」

 前を向いたままメフィストは答える。

 「いや、確かに私は必要以上にこだわるのかもな。先日取り逃した敵も普通ならここまで後悔することはないのだろう」

 自嘲的な笑みを浮かべ、ゆっくりと振り返る。

 「私の師も父も、慈悲ゆえに見逃した敵に刺され死に、同時に味方を窮地に陥れた。彼らと同じにはなりたくないんだよ私は」

 リリスの頭に手を置き、撫でるように動かす。

 「お前たちにも死んでほしくないからな」

 優しく触れるその手にリリスはうっとりと頬を緩ませる。

 「そうだ、そのためにも」

 突然遠くを見つめ、メフィストは手に力をこめる。

 「め、メフィスト様……?」

 リリスの不安げな声も聞こえず、メフィストは胸中で呟く。

 ―――奴は必ず遠くない未来、大きな脅威になる。

 取り逃した少年の姿を思い浮かべ、彼の内から感じる大きな可能性を睨みつける。

 「誰も殺させはしない……」

 「メフィスト様」

 思考を打ち切られるように聞こえた声にメフィストは我に戻る。

 「アモンか、どうした」

 力が入っていたことに気づき、リリスに謝罪してアモンの方を見る。

 「ベルゼブブ様がお呼びです」

 頭を下げつつもアモンはメフィストの目を見ている。

 「次の作戦を開始するとのことです」

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