第8話 地獄の一夜
「う―――うわあぁぁぁぁああ!」
遅れてきた恐怖の感情がライオットを絶叫させた。そして思わず目を瞑る。
「……あ?」
だがしばらく経っても『死』は追いついてこない。ゆっくりと目を開け、周りを確認するとそこはさっきまでの地獄とは違い、夜風に揺れる草原だった。
「ここ……は……?」
「ここは聖都ルシファーの南西五十キロの辺りだな。いやぁギリギリだったぜ」
息を整えながら騎士は笑った。
「さてと、紹介が遅れたな。俺の名前はガリレオ・J・アルバトロスだ。所属は聖イデア騎士団第四部隊、隊長だ」
「あの、第四部隊の……!」
その名前には聞き覚えがあった。
十年ほど前、突如として現れたキマイラ数百匹の群れをたった四人で、三分と経たずに制圧してしまった部隊だ。
「ら、ライオット・ジョーカーです!助けていただいてありがとうございました!」
自然と背筋が伸び、声が裏返りそうになりながら名乗り、礼を言う。そしてここで自分が担がれていたままだった事に気が付く。
「あ、あの……そろそろ下ろしてもらっても……?」
「む?そうだな、ジョーカーさんちの坊ちゃんをいつまでもこの扱いは失礼か」
ガリレオもそこで気づいたらしく、丁寧にライオットを地面に下ろした。
「隊長!」
丁度その時、三人の騎士が駆け寄ってきた。どうやら第四部隊の人間のようだ。
「ご無事で」
「おう、いい援護だった。おかげで命拾いした」
唯一の女性騎士が即座にガリレオの前に膝を付き、頭を下げる。後の二人もゆっくりと同じように膝を付いた。ガリレオからの指示を待っているようだ。
「さて、ライオット……ジョーカー君」
少し難しげな表情を浮かべ、ガリレオはライオットに向き直る。
「君を救出できたのは不幸中の幸いだった。君の兄上にも顔向けが出来る」
「……はい」
ライオットは『兄』という言葉にうつむく。
「……我々はこれよりさらに南西にある都市、水の都『ウンディーネ』へ後退し、上からの指示を待つ。君も来い、唯一の生き残りだ。最後まで保護しきらないとな」
ルシファーの方を見ながらガリレオは思案している。
「は、はい!」
「おし、いい返事だ。じゃあ行くぞ」
部下の三人に向けて言う。
「はっ!」
「りょーかい」
「……」
三者三様に反応を示し、第四部隊の人間は素早く動き出す。
ライオットはルシファーの方を振り向く。
「……!?」
目を疑った。
この世界最大の都市は火に焼かれ、これだけの距離があっても空が明るく見えるほどに燃え盛っていた。
そして、来るときには鉄壁を思わせた巨大な壁を突き破り、自分に向かってまっすぐに焦土と化していた。
恐らくそれは、あのメフィストが放った、死そのものによるものだろう。
「あれが……悪魔」
これが、大聖都ルシファー唯一の生き残りの少年の体験した一夜だ。
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