第6話 生きるために

 角を曲がればすぐに門が見える、そうすれば―――。

 「助かる!」

 「いや、お前は殺すぞ」

 ライオットの前に何かが落ちた。

 舞い上がる土ぼこりから顔を守るために腕を上げた。その腕の下を潜り抜けた何かに吹き飛ばされた。

 「おごっ!」

 「ふむ……力は秘めているが、使いこなせない。調整ができないのか?」

 全身が黒に覆われた長身の男がライオットを観察しながら呟いた。

 「好都合だな。成長して我らを脅かす存在になる前に消すことが出来る」

 「おぉ?なんだ、お前の獲物だったのか」

 ヴァンパイアが黒い男に近づきながら問う。

 「ロード、まだここにいたのか。城の中をアモンの指揮で調査させている。そちらに合流しろ」

 「あいあい、お前の獲物なら引き下がるしかねぇわな」

 ひらひらと手を振り、ロードはアルタの死体を拾い上げた。

 「なに……を……!?」

 「あぁ?うちには死体コレクター、ってか死体操るやつもいるからなぁ。この世界の人間は面白い魔法とかいろいろ使えるし、資源は有効活用しないとな」

 「資源、なんて!そんなの……!」

 「んなことより、お前はお前の心配したらどうだよ」

 うずくまるライオットの背中を思い切り踏みつけ、黒い男は剣を抜いた。

 「まったくその通りだ、無駄だがな」

 咄嗟に腰の剣を抜いて無我夢中で振り回す。

 「そんなものが」

 「一瞬でも、隙が、出来れば……!」

 踏みつける力が少し緩んだ隙に抜け出す。数度転がり、体勢を立て直したときにはアルタとロードの姿は消えていた。

 「ふん、足掻いても仕方がなかろうに」

 「……僕は、死ねないんだ」

 ―――最期の刻まで足掻いてみせろ!

 蘇ってきた声に勇気をもらい、ライオットはブーツに手を触れた。

 「死にたくないんだ!」

 「だったら逃げ切ってみせろ、このメフィスト・フェレスから」

 剣を構えた男を見据え、ライオットも叫ぶ。

 『形状変化メニュー・ウィンド!』

 ライオットのブーツが光り、その形を変えていく。

 『部品追加アップ・グレード!』

 ブーツの踵に巨大すぎる噴射口が付き、爆音を上げながら周囲に煙を撒き散らす。

 「それが貴様の力か。何かは分からんがそれしきで逃げられるとでも―――」

 ライオットはメフィストの言葉を無視して、一歩踏み出した。

 「うわああああああぁぁぁぁ!」

 「なに!?」

 同時に噴射口が火を噴き、ライオットの体を勢いよく前へ押し出した。

 メフィストは予想外の動きと加速に対し反応が遅れ、その間にライオットはすぐ横を通り過ぎていった。

 「逃がすか……!」

 門へと一直線に飛ぶように向かうライオットの背中めがけてメフィストは、剣を振った。

 「空撃・災厄の迅!」

 静かにその言葉が紡がれた瞬間、ライオットのブーツが粉々に崩れた。

 「うわぁ!?」

 急に加速力を失ったライオットはガタガタに崩れた道の上を二転、三転した。

 「……なるほど、魔法か。厄介なものだ」

 「く、くそ……!」

 「一度ならず二度も私に背中を追わせたのだ。誇ってよいぞ、少年」

 剣が閃き、ライオットの脳裏に死を予感させた。

 ―――死にたくないんだ……!

 その願いが、誰かに届いたのか。今まさにライオットの命を刈り取ろうとしていた刀は、何かを防ぐように軌道を変え、火花を散らした。

 「……新手か」

 メフィストは舌打ちをして、新たな標的を見据えた。

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