第4話 騎士の矜持

 自分に迫る死を全身で感じながら、ライオットはその時を待つ。

 ―――が、それを遮る声が、聞こえた。

 「加速アクセル!」

 魔法を発動する男の声。それと同時にライオットは体が浮くのを感じ、目を開いた。

 「ライオット君」

 そこにいたのは昼間に出会った騎士だった。

 「君は、私の話を聞いていなかったようだな」

 騎士はライオットを背に庇いながら、アクババに向かって剣を向けた。

 「諦めず、可能性を探し続けろ。私は君にそう伝えただろう」

 「でも、こんな状況で一体どうやって……」

 「弱気になるな!」

 騎士の怒声に身を竦ませ、ライオットは騎士の背中を見つめた。

 「どんなに苛酷な状況でも、生きていれば必ず希望は見えてくる!諦めて死ぬよりも、石に噛り付いてでも生き残れ!最期の時までもがいて見せろ!君は騎士になりたいんだろう!」

 彼の発した言葉全てが、ライオットの弱気な心に突き刺さる。

 騎士とは弱き人々の救いとなる存在で無ければならない。いつか父親から聞いた言葉をライオットは思い出した。

 「行け!ライオット・ジョーカー!」

 その言葉に弾かれるように、ライオットは街の外へつながる門目指して走り出す。

 「逃がすか……!」

 「貴様の相手はこの私だ!」

 アクババの羽を鋭く切り裂く刃。舌打ちをしながらアクババは後退した。

 「邪魔をするならくびり殺す……!」

 「ほぅ、面白い。やってみせよ、たかだか鳥風情が我々聖イデア騎士団に勝てると思うな」

 剣を胸の前に掲げ、騎士は吼える。

 「我が名はカレル・スピード!この剣を我らが守護神に……」

 「捧げるなら剣ではなく命にしておけ」

 名乗りを上げる騎士を遮ったのは彼の背後から唐突に現れた影。

 影は音も無く、カレルを切り裂いた。肩口から斜めに切り裂かれたその体は、力なくどさりと崩れ落ちた。

 「大丈夫かアクババ」

 「な!?メフィスト様!」

 剣を鞘に収めた男を見て、アクババはすぐにひざまずく。

 「よい、楽にせよ。リリス、手当てを」

 「仰せのままに」

 名前を呼ばれ、黒い羽を生やした女がアクババに手を添える。

 「貴様ともあろうものが、殺し損ねるとはな」

 「申し訳ございません……!」

 「いい、失敗はある。だが次は無くせ」

 「はっ!」

 メフィストはアクババから離れる。

 「アモン、敵の残存兵力はどうなっている」

 「はっ、既にほぼ壊滅しております。恐らく戦える者はもういないでしょう。ですが」

 フクロウの頭を持つ男は、ライオットの逃げた先を示す。

 「アクババの取り逃した少年。恐らく街から逃げようとしているのですが、とてつもなく大きな力を感じます。それからあまり心配は無いと思いますが、はるか先から大きな力が数体近づいています」

 「そうか」

 メフィストはゆっくりと歩き出す。

 「リリスを中心に負傷兵の手当てをしろ。捕らえた捕虜の中にけが人がいた場合も同様に対応。人質に死なれては困る。それから貴様は動ける者を率いて城の中を捜索、アレを探せ。残りの指揮は任せる」

 「メフィスト様は?」

 アモンの問いにメフィストは薄く笑う。

 「逃げた少年を殺してくる。一度私の前に立ったのだ、生かして帰すわけにはいかん」

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