第3話 襲撃

 「―――?」

 誰かに呼ばれた気がして、ライオットは目を覚ました。

 「なんだろう。すごく……」

 ―――嫌な感じだ。

 訳も無くそう感じ、ライオットは寝間着から着替え、武装を整えた。

 時計の針は午前二時を指していた。

 窓の外は真っ暗な夜。今日は新月らしく、月明かりすらない。

 その風景に穴が開くのを、ライオットは見た。

 「あ……」

 その穴はゆっくりと大きく広がっていき、やがて空を覆い尽くした。

 そして穴は、大量の化け物たちを産み落とした。

 「な……!」

 その異様な光景から逃げるように、ライオットは咄嗟に部屋から飛び出ようとした。直後、部屋の窓に何かが激突した。

 「逃がすかよ、クカカカカカコココ!」

 そこにいたのは鳥の頭をした、悪魔。

 鳥の悪魔は奇声を発しながら、ライオットに飛びかかる。

 「うわっ!」

 床に体を投げ出すようにして、何とかそれを避ける。

 「我が名はアクババ。貴様を殺す名を覚えて逝け。さぁ、貴様の処刑方法を告げよう」

 鳥の悪魔―――アクババはにやりと嗤い、くちばしの隙間から炎を溢れさせた。

 「丸焼きだ」

 「ひっ……!」

 逃げようとするも、部屋の隅に追いやられていたライオットに逃げ場はない。

 逃げることを諦めたライオットは、覚悟を決めて、手元にあったゴミ箱を掴む。

 「死ね!」

 アクババから炎が放たれる。

 『我、ジョーカーの名において命じる』

 悲鳴を必死に堪えながら、ライオットはゴミ箱をアクババに向かって掲げる。

 自らの魔法を発動するために。

 『汝、その姿を変え、我が身を護る堅牢な盾となれ』

 手にしたゴミ箱に幾何学的な紋様が浮かび上がり、光を発する。

 『形状変化メニュー・ウィンドウ拡大ズーム!』

 ライオットの声に呼応するように、ゴミ箱が部屋いっぱいに巨大化し、アクババもろとも炎を包み込んだ。

 「何!?グアアアアア!」

 ゴミ箱の中から自らの炎で焼かれているであろうアクババの悲鳴を聞きながら、ライオットは呟いた。

 「……焼き鳥」

 「貴様……!」

 「うわぁぁああ!」

 ゴミ箱に穴が開き、その穴から鋭い眼光がライオットを見据えた。

 ライオットは転がるように部屋から出ると階段を飛び降りて一階のホテルのロビーまで走った。

 「……ぁ」

 見えてきた惨状に、思わず声が漏れた。

 ロビーを明るく照らしていた電球は全て破壊され、廊下の至るところに死体が転がり、引き摺られたような血の跡がこびり付いている。目に見える範囲に立っている人間は誰ひとりいない。

 吐き気を必死に堪え、不気味な音を立てながら風に揺られている扉を押し、外に出る。

 「………」

 外に広がっていたのは、今までの惨状すらぬるく感じる地獄。破壊された建物、炎上する街、そして悲鳴を上げ逃げ惑う人々を襲う悪魔の軍勢。

 網膜に焼き付いてしまった光景から目をそらすことが出来ず、ライオットはその場に座り込んだ。

 「嘘だよ……こんなの……」

 「嘘だろうが何だろうが関係ねぇよ」

 背後からゆっくりと語りかけてくる声に、ライオットは自分の運命を察し、恐怖から少しでも遠ざかろうとして、目を閉じた。

 「どうせお前は、ここで死ぬんだからなぁ!」

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