第659話 終幕
戦いは終わった。
結局転移はしたが、煌和とギリスの人達、そしてウロの頑張りによって、転移してきた世界は縮小され、リューセ山脈の地下にある大迷宮へと固定された。
あそこは地場も何もかもが狂っている場所で、世界中の出入口は既に封鎖され、容易に出てこられない。
その裏で天使が解放されたことによってこの世界に再び干渉できるようになった神が、自ら作った亜空間を出入口に設置して、もう二度とそこから転移できないように座標の上書きしたり、この世界に居る“神”に縄張りだけではなく世界全体に加護をつけてもらうように交渉したりして、世界中に蔓延していた混沌属性による流行り病は終息した。
親玉が消えたことによって指令系統がぐちゃぐちゃになった魔族はあっという間に投降し、神がどんな裏技を使ったのか知らないが、捕らえられていた人達がリューセ山脈に突如現れた豪勢な扉から殆ど全員戻ってきた。
怪我もなく、万全な状態で。
記憶が曖昧になっていたが、それによってPTSDを発祥している人は少なかった。
まだまだ問題は山積みだけど、世界は確実に復興への道を歩んでいる。
そよそよと風が草をくすぐり、空へと駆け抜けていく。
雨風で削られ小さくなったかつて墓石だったものに手を合わせた。
『ありがとうね、ライハ。手を合わせてくれて』
目の前の墓石は、このネコ、二代目勇者テレンシオの父親の墓だ。ネコの要望でいの一番このリオンスシャーレまでやって来て墓参りをしている。
オレは今、ちょっと軽く旅をしている。
軽くというのは、この旅は期間限定ものだからだ。
半年。
この旅を終えたら、オレはエルファラの後を継いで魔族達を束ねる王になる。
神から『管理人』の権限を受諾し、正式に魔族達の王、魔王としての資格を手に入れた。
投降してきた雑、今で言う半人達は行き場を失っていた。
元々戦争のためだけに産み出された彼らは、他の魔物同様に処分される運命にあった。だが、彼らを生んだ女性達がなんとかならないのかと声を上げたのだ。
混ざっているが、お腹を痛めて産んだ子だ。情がある。
しかし、敵だった彼らを受け入れるのに各国が躊躇するのは当たり前だった。
だから、名乗り出たのだ。
もう無くなってしまったホールデンの地に、半人や、人間側に加担してくれた魔族達が暮らせる所を作ろうと。
魔族の本能、強いものには従うという特性もあって、今やエルファラの力を得たオレを否定するものはいなかった。むしろ推薦された。
わかる。もうオレは人間の部分が無くなってしまっているから。
最適って感じなんだろう。
今出してないけど、角も好きに出せる。
出したら重いから出さないけど。
「もう終わったか?」
「ああ、ちょうどだ」
エルファラがウロと双子を連れてやって来た。
エルファラはオレに全ての力を渡したことによって魔族ではなくなってしまった。人間に近い。
ウロも天使が離れたことによって限りなく人間に近い魔族になった。
「ここら辺は涼しいんだな!!クーラーなんかよりも気持ちいい!!」
そして、シンゴ。
あの後、もしかして今の魔力量なら出来るかもと賭けに出た。
以前手に入れた、相手を即死させる神具。
《慈悲の恵み》
オレの呪いならば、もしやと思ったのだ。
よくよく考えれば暴食の主も反転させていたし、もし駄目なら諦めようと。
結果、成功した。
目覚めたシンゴは力が強いだけの一般人になっていたが、腕の魔族の肉体も色が違うのと爪が鋭いだけの腕に変化し、それ以外はなんの問題もなく息を吹き替えしたのだ。
そして今、エルファラ達と一緒に世界を巡る旅をしている。
旅をしながら人助けをしていきたいとシンゴが言ったのに、エルファラ達が便乗した感じだ。
まぁ、オレはそれにちょっと着いていってるって感じかな。旅の注意点とか、その他の事を色々教えている。
旅不馴れ過ぎるんだよこの人達。凄い心配。
それでも夢にまで見た旅だからか、シンゴはメキメキと旅人として成長した。オレよりも早いんじゃないか?
そうそう、旅と言えば、一緒に戦った彼らとは今も連絡を取っている。
スーパー・ノヴァは解散することなく今でも活動中だ。ノルベルトは今は車椅子生活だが、もう少ししたら背骨の神経が元に戻る魔法陣の完成が近いと聞いた。
あ、ちなみにノルベルトさん。ナリータに告白されて付き合ってるらしい。よかったね。
アレックスは相変わらずで、たまにニックが会得した新しい能力を使ってアレックスに奇襲しに行っているらしい。
いいよね、鏡に映る景色を同時に見ることができて、しかもまたなんか新しい魔法を開発している。
レーニォはラビと楽しく世直しの旅をしているし、デアは魔法に目覚めてギリスに通って勉強している。
たのしそうだ。
勇者のみんなもそれぞれやることを見つけて新しい生活を始めている。
ユイはグロレ達とノアの付き人になってて、煌和で養生中のノアの傍ら何か勉強している。国の空気が合うとか言ってたが、今度どんなところか見に行きたい。
ノノハラはコノンと幸せ生活中だ。
レズだったとは…。いや、そんな気はしてた。
そんな二人を横目にナナハチがコマを筆頭とした警察犬みたいなものを作っているらしい。
威圧感凄そう。
そしてオレ達のパーティーだが、残念ながら解散した。だが、名前を取っ払っても未だに連絡を小まめにやって、みんな好き勝手に旅して人を救っている。
アウソは人魚達を束ねる王になり、今海の中で色々法律を変えようとしている。
せめて海の中ではなく島では駄目なのか?と、
変えられると良いな。わざわざ海の中に潜って会いに行くのは大変だから。
キリコはグレイダンと無事番になり、グレイダンの一味を引き連れて空を飛び回っている。貰う手紙には最近手に入れたという転写機、カメラみたいなもので撮った風景が大量に送付されている。楽しそうで何よりだ。
カリアはなんとザラキと結婚した。
ザラキの長年の願いが叶ってひたすらおめでとうございます!!!とネコと一緒に盛大に祝った。
義手になったカリアだが、普通の義手ではないようで、特になんの問題もなく馴染んでいる。仇も討ててスッキリしたのか、なんだろうか、凄く綺麗になった気がする。
おかしいな?特に何も変わってないはずなのに。
そんな感じで各々良い感じに進んでいる。
「一旦お前が王座につくときに戻ってくる。そんときにはしっかり修行をつけてやるから覚悟しろよ!!」
「僕も行くからね!!だらしなくしてんなよ!!主人公!!」
「では、旅の御武運を」
「あとでねー!」
「気を付けろよー!」
手を振り返す。
ここで一旦お別れだ。
「そっちこそ気をつけて!!」
『またねー!!』
お互いの姿が見えなくなるまで手を振り、見えなくなると傍らの灰馬に跨がった。
ザラキが勝手に灰馬に精霊くっ付けて翼を生やせるようにしてしまった灰馬だ。まだかまだかと空色の翼を生やし、そわそわと合図を待っている。
残された時間はそんなにないけど、最後の一日になるまでこの世界を見て回ろう。
「行くぞ!用意はいいか?」
『おっけー!』
灰馬に脚で合図を送る。
すると、灰馬は軽やかに地を駆け、オレが発生させた風に上手く乗り大空へと飛んでいく。
眼下に広がるのはオレが精一杯生きたこの世界。
「さーて!これからも頑張りますか!」
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