第660話 ノーサブタイトル

さんさんと太陽が降り注ぐ。


よく晴れた空の下にはリューセ山脈が横たわり、私たちに変わらぬ恵みをもたらしてくれている。


「──であるからして、この国は成り立ち、初めて魔族と人族との共存が叶ったのであります」


窓から吹き込む風が眠気を誘い、欠伸を一つ。


教室には様々な形の魔族や人族が机を並べて授業を受けていた。


歴史の授業は眠い。

何でこんなに眠いんだろうか。


ああ、語り口が柔らかいせいだ。














あのまま寝てしまって先生に怒られた。

全くもう。寝不足じゃありません!


先生の授業は何故か眠たくなるんです!!


少女は翼をバサバサと動かして背伸びをし、ついでに頭を振って角の重さで首を鳴らす。


整った街並み、カラカラとあちこちで回る風車の音が夏を感じさせた。


魔王様が作り上げたこの国は活気に溢れている。

何度授業で習っても大昔、この世界で起こったという大戦なんか信じられない。


その証拠だと、かつてのホールデン城がある程度修復された形で残されているが、正直よくわからない。確かに未だに信じられないほどの魔力を感じるが、あそこにいくと訳もわからずに涙が溢れるから行かないようにしている。

魔力の記憶の残骸に影響されるんだっけ?


人によっては感じる範囲も違うらしく、若かりし頃の魔王様が見える!!とか言って通い詰めている友達もいる。魔力の記憶が見えるなんて良いなぁ。


「今の魔王様もそんなに年取ってる風には見えないけど…」


魔王城を見上げる。

この国を立ち上げて今日まで統治しているただ一人の魔王。その隣にいるネコさんと一緒にこの世界の魔族達を導いてきた。


羽の生えたネコの彫刻がされた橋を渡る。

このネコは国のシンボルだ。実際国旗にも羽の生えたネコに雷の王冠、上げた右前足には剣が描かれている。


ふと川の方を見れば水の精霊スーイが気持ち良さそうに遊んでいるのが見えた。良い魔力が巡っている印だ。


「お、新しい本屋ができてる」


せっかくだし、本でも買おう。

中に入って物色していると、気になる本を見つけた。


雷帝英雄伝、なんとも古いタイトルだが何故か気になった。


作者はラヴィーノ・スパニーア・フリイダムとアウソ・アケーシャ・エノシガイオス。

ぺらりと中を開くと、知らない世界の事が書かれていた。石の木々に囲まれた町に鉄の箱が動き回る不思議な国から来た、一人の青年の物語だった。


くすりと笑う。


なんて不器用な主人公だと。


「これください」


本を抱え、少女は店を出た。

その少女の後ろ姿を、この店の主である桃色の髪の青年が見送っていた。


出入口から見える魔王城を不思議な色彩の瞳で眺めながら青年は言った。



「まだまだ先はあるけど、

ひとまずライハの物語はここで終わりだ。

めでたしめでたし」

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