第615話 第四の???.4

情報通り、マグマの攻撃は人魚憑きが対処し、予定通り相殺してくれている。本当ならあの時の交換条件で収まれば一番良かったんだが、勿論アイツがあんな条件で大人しく仲間を売り渡してくれる訳なんて無いって事くらい分かっていた。


あいつ、そういうところあまっちょろいから。


分かってはいた、が…。


他の門番役の魔族や前線メンバーと比べて俺はめっぽう弱い。火を操る種族でも、ここにいる奴らで一番弱いサラマンダー族だ。

化ける技術や、加工技術に秀でているが、どうしても火力が劣る。


直接対峙すれば間違いなく負ける。

現にライハにさっきの攻撃はノーダメージだった。


だから、直接の契約主のウローダスに出来るだけ有利になるように結界とマグマの海くらいは召喚してもらっているが、だからこそ閉じ込めてなんとか交渉に持ち込もうとした。

こちらも命を握られている上、監視も付けられている。

手助けしたくても、もう出来ない。


双子を見る。

あのオレンジ頭の姿が無いが、取り敢えず双子の無事が確認できただけでも良かった。


キラ、と、火の粉とは違う光が瞬き、次の瞬間には視界一杯に氷の帯でできた檻が出来上がっていた。


『ま、結局戦うしかないよな…』


確かに火属性は冷気に弱いが、これしきの冷気、なんの阻害にもならない。マグマの柱をぶつけて破壊しようと意識を逸らした、その時。


『!』


ひゅっと視界の端に人影が映った。

赤い。火とは違う赤色の髪が翻り、突き出される銀色。刃だ。


だが、俺に物理は──


そうタカを括っていた。しかし、盾にした手に走る痛みに驚く。

おかしい。一応魔力制限解除して元の姿に戻っている筈だが、なんで刃が効く!?


「ホントに効くのね、これ」


赤い髪の女性がニタリと凶悪な笑みを浮かべ、襲い掛かってくる。

飛んでいるわけではないのに、人間とは思えぬ速度、身のこなしで襲い掛かる女性に混乱した。この人間は攻撃速度が異様な事しか伝えられていない。魔具を装備しているなんて情報はない。なのに、なんで刃が通る?


赤色の女性が消え、予想外の場所から再び舞い戻り猛攻を加えてくる。反撃での火の玉は全て避けられた。なんだその動きは??


『そうか、その為の!』


女性が氷の帯に着氷し、落下のスピードをそのまま生かして滑っては、俺に狙いをつけて飛び上がってきていた。

その衝撃で氷の帯は崩れるが、すぐに修復される。


信じられん、この人間。いくら縦横無尽に氷の帯が敷かれ、修復されているとはいえ、下はマグマの海だぞ!恐怖心は無いのか!?


「しっ!」


『!』


刃がこちらを向く。振り上げられるその時、刃に付属された魔法陣に気が付いた。《冷却》の魔法陣付加。


くそっ!やっぱり弱点はバレていた!


思えば前線のサラドラがやられたんじゃ対応策くらいすぐに思い付くだろう。でも、俺だって命が惜しい、使命も全うしていない。簡単にやられるわけにはいかないんだ!


魔力を変換し、一気に放出した。


体から吹き出す炎が容赦なく女性を焼く。氷の帯ごと広範囲に渡って、円形状になりながら焼いていく。

サラドラには及ばないが、リューシュと同じ高温の炎だ。

肉はあっという間に炭化する程の。


ライハの仲間だから、本当は必要以上に傷付けたくなかったが、そっちがその気ならってやつだ。


だが、そんな気遣いなんて無用だったと気付いたのはすぐだった。


弱まった炎の壁から人影が飛び出し、こちらに狙いを定めていた。なんで? そんな疑問しか浮かばない。

風切り音を立てて迫る脚、その脚に光の矢が二つ飛んできて着弾し、すぐさま魔法陣が展開。


《盾》《反射》《冷却》の複合魔法陣の印。


『!!? なんだそれ!聞いてねーぞ!!一体何処から──』


飛んできた方向に目をやると、なにかを投げた体制のライハ。


『はは、まじか』


衝撃が走り、視界が伸びた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る