第613話 第四の???.2

炎が燃え上がる。


「ッ!!」


タゴスの腕からも火が吹き出し、容赦なく肌を焼いた。

肉の焼ける匂い。


『ライハの手を放せ!!!』


火が吹き出す瞬間、タゴスはがしりとオレの手首を掴んでいた。炎の熱と勢いが凄まじく、キリコ以外は思わず退いた。ネコの尾とキリコの剣が振り下ろされる。


タゴスの腕が切断され、タゴスの腕の切断面から赤い液体がゴボリと吹き出した。手首を掴んでいた手も溶けて、燃え上がって消えた。


すぐに治癒が始まるが…。


「!! そっから動いたらダメ!!」

「落ちるよ!!」


落ちる?何の話だ?


「!?  なっ!」


ぐわん、と、再び地面が揺れる。今度こそ気のせいではなかった。本当に地面が揺れていたのだ。


「おわっ!?」


地面がひび割れ、分離した。割けた地面からは赤いドロドロとしたものが流れ、放出される炎と熱で地面が焼かれていた。


『あれ?あいつ居ないよ!?』


いつの間にかタゴスの姿がない。


「早くこっち来い!!」


「ウコヨ早く!!」


ユイとサコネが叫んでいる。地面の分離に巻き込まれ、ウコヨが流されかけていた。

一瞬ためらいながらもウコヨが跳び、ユイが受け止める。


キリコやアウソは無事だ。二人は既に武器を構えてタゴスを探しているようだった。


しかし、いつ門を潜ったんだ?

それらしきものは無かった筈だぞ。


どんなに思い返しても覚えはない。なのに、ここの景色はどう見たって門の中だ。


『門なんて無かったのにって顔だな。そりゃそうさ。俺は門番じゃないし、ここは門の中じゃない。近いけどな』


少し離れたマグマの上にタゴスが立っていた。しかも切断された筈の腕もしっかり元に戻っている。


「じゃあ、お前は何なんだよ!」


タゴスは、んー、と少し考えて。


『…補欠組??』


首を捻りながら答えた。


「は?」


『分かる!分かるよ!俺も言ってて意味不明だもん!本来だったらお前らはさっきのピエロん所でそこの勇者二名と鳥二羽しか残らない計画で、ぶっちゃけ俺の出番は無かったはずだったんだよ!』


「「鳥っていうな!!」」


突っ込みを入れる双子。

確かにあのピエロは、というかピエロの能力や門の中の空間だけ見れば厄介なもので、ニックが居なかったら詰んでただろう。

何故かオレの魔力が補充されて終わったけど。


『でもアイツすっげー気紛れで、多分命令に従わずに暴走するだろうと見越しての、俺』


「……ほう」


悪魔側も色々あるらしい。

タゴスの話を聞きながらも出口らしきものがないかと探してみたが、見渡す限りマグマの海で足場がない。

正直、今立っているこの床を沈められたらアウトである。


なのに肝心の足場は辛うじて浮いているだけなのか物凄く不安定でぐらぐら揺れ、呼吸が辛いほどの熱気で思考が鈍くなる。

汗もなく涼しい顔しているキリコだけ元気そうだ。


『という、訳で、俺も余計な殺し合いしたくないからさ。ライハ、取引しないか?』


「取引?」


『ああ』


タゴスの人差し指がオレの周りの人間を指差す。


『そこの人間二人と、鳥共を素直に俺に引き渡せば、何の苦もなく次に行ける。時間がないんだろ?人柱になっているノアの魔力も尽き掛けているっぽいし、なんなら今後の敵の情報を渡してやってもいい。どうだ?』


「…引き渡して、無事でいさせてくれる訳じゃないんだろ?」


『んー、まぁ。ほら、俺も命令されてるし、逆らえば殺されるからなぁ。あ、でも抵抗されないように四肢焼くくらいで、命に関わらないようにはするからさ。今後の生活は保証できないけど』


「……」


そんなの了承するわけがないだろうが。

だけど、タゴスはそれを見越して取引の交渉に持ちかけているような気もする。


「!」


ふと、タゴスの首に変な魔力が絡み付いているのに気がついた。あればもしかして、隷属の首輪の類いか?そこから糸状の魔力がマグマの中に続いている。


「…………断る、と、言ったら?」


タゴスはやっぱりかという風に肩をすくめた。


『じゃあ、しょうがねーけど。実力行使になるよね』


言い終えると、タゴスの背後からドンドンと、複数のマグマの柱が立ち上った。

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