第612話 第四の???.1
ぐわん、と、一瞬地面が揺れた気がした。
「?」
だが、皆気付いた様子もなく、スタスタと変わらず歩いている。ネコに至っては、そっぽ向いて欠伸をしていた。
未だに魔力融合しているからネコがちょっと眠いって感情が伝わってきた。
そういえば戦場でも、少し平和だとオレの頭の上で爆睡していた。
どんなに強くても、中身が勇者だったとしても、体がネコなら睡魔には勝てないらしい。
もう一度見渡し、やはり何も無いことを確認して、気のせいだったと再び歩き始めた。
ニック達の戦闘音はもう聞こえない。
決着が着き次第来ると思うが…。
双子は不安そうにヤンを抱き抱えているが、相当な力で抱いているのか若干苦しそうであった。
「…うーん…」
キリコが頭を押さえながら首を振っている。顔色は良くない。
「キリコさん、どうしました?」
「…何となく、体が、ていうか頭が重くて」
キリコにしては珍しい。ルキオでの船酔い以来ではないか?
「じゃあ、試しに回復魔法使いましょうか?」
「え、あんた使えるの?」
驚くキリコ。そんなに驚かんでも。
いや、そうか。
自分の怪我は勝手に治るし、人の怪我もニックが治していたもんな。
「実は使えるようになってました。ニックいたから使う機会ありませんでしたけど。 腕、いいですか?」
「ん」
差し出された腕を取り、魔力で回復魔法陣を生成すると、そのままスタンプのように貼り付けた。
もう手元に魔方陣札に出来そうなめぼしい紙がなかったから、盾の魔方陣と同じようにしてみたのだが、うまくいった。
魔方陣は淡く光ると、スゥ、と肌に溶けた。
「へぇ、これって結構効くのね。凄いじゃない」
顔色が良い。効いたらしい。
何だかんだで、ニックに中級まで教わっていて良かった。
上級まで会得したかったが、説明を効いていてもちんぷんかんぷんで、陣だけ覚えても意味がないってところで躓いた。
筋肉や内臓の総称なんて全部覚えられないよ。
「
「俺もいいか?」
すると、次々に腕が差し出される。皆結構疲労が溜まっていたんだな。
ペタペタと魔方陣を張りながら、軍時代を思い出した。
あのときも無描(対象に直接描かず、魔力で魔方陣を生成する技)で出来ていれば良かったのにな。
そうすればもっとスムーズに怪我人を戦場復帰させれただろうし、「お前の隊だけ紙使いすぎなんだよ!!お前の給料から手間賃引くぞ!!」って備品担当の人に怒られることもなかったのに。
「次おれも頼むわ」
「おー、 ……?」
最後に差し出された腕を取り、首を傾げた。
確かに、聞き覚えのある声ではあった。だが、その人物は此処には居ない筈の者だ。
「久しぶりだな、ライハ」
「タゴス…」
顔をあげると、タゴスがいた。
オレに剣の振り方を教えてくれた、この世界で初めてできた友達。
若葉色の髪に、オレンジの瞳。
あの頃と全く変わらない姿。
突然現れたタゴスに、皆は一瞬で武器を取り、突き付けている。だが、タゴスは全く焦る様子もなく双子の方に一瞬視線を向け、またオレへと戻した。
『………敵?』
「………」
ネコの質問に返答できない。
敵であって欲しくはないが。
タゴスはそんなネコの質問に苦笑した。
「本当なら、ゆっくり再会を喜びたいところなんだけどな』
ジリジリと、タゴスの腕が熱を持っていく。
瞳は赤みを濃くしていき、髪は根本から火が燃え上がっていくかのように真っ赤に染まっていく。
気配が、悪魔のものへと変化していた。
『仕事だ。ここで数人、脱落してもらう』
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます