第610話 目的は.8

なんという幸運だ。

しかも勇者の魂が『悪魔化』しているではないか。

思わずほくそ笑んだ。勇者が悪魔だなんて、とんだ皮肉もあったもんだ。


すぐさま捕らえるよう命じたが、鷲ノ爪も一枚岩じゃ無かったらしく、伝達が遅れて取り逃がした。

そのままルキオに逃げられてしまって追えなくなってしまったが、ずっとそこに居るわけでは無いだろう。


ルキオ周辺に裏の方で賞金首として情報を広げておいた。


その際、奴の近くにいる人間の事も調べてみたが、人質に出来るような者は手の届く範囲に無かった。定住している訳ではない。フリーハンターというやつか。

フリーハンターは独立している分、足枷が少なくて厄介だ。


それに、聞き覚えのある名前がある気がしたが、ちゃんと思い出せないということは大した奴じゃなかったのだろう。


とにかく生存が確認できただけでもよかった。


どうやって隷属の首輪を破壊したのかは分からないが、アレさえ手に入れば他の勇者など必要ない。

土地の魔力の乱れで魔物が発生しているどさくさに紛れて、洗脳途中の勇者が逃げ出していたが、それすらもどうでもよい事だった。


いや、まて。

そういえば一人使えそうな奴がいた。


我々を何か別のものと重ね合わせて語る風の勇者だ。

暗殺に失敗し、両手を失い、あまりの恐怖で魔力が暴走したが、あの魔力の量は使える。それに、他の勇者なんかよりも余程使えそうだ。


魔法で眠らせ封印していた部屋に行き、ソイツを実験体とした。


今までは勇者をマクイ木の実の粉を混ぜた食料を食わせて魔物化の多様性を実験していたが、ふと、魔族の肉を移植するとどうなるのか興味が湧いた。

人間の女と魔族の男が交わると、半魔人ができるのは分かった。

なら、人間の体に魔族の体をくっ付ければ?


南の大陸で捕らえた、セイマの魔族の男の手を落とし、風の勇者に移植した。

すると、魔族の肉は人間の肉を吸収し、融合した。

血が巡り始めると、魔族の肉を通過した血に混沌属性の魔力が混ざり、ゆっくりと体を蝕み始めた。

これは面白い。


土の勇者の方には、魔族の血を混ぜた食料を与え始めた。

すると此処でも、風のよりは弱いものの体を蝕んでいくのが確認できた。


黒班はまだ出ていない。


奴は捕らえることが出来ずにいたが、生存は常に確認がとれた。しかも、なんとあちらも悪魔化の様子が見てとれた。

歓喜に震えた。

神になるという目的以外で、興味の湧いたのは初めてだった。


風の勇者も遂に体の細胞が全て汚染されても、自身の思い描く『勇者』を振る舞っていた。全ては敵であると思い込んだ奴、『ライハ』を殺すために。


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